坂元裕二が『ファーストキス 1ST KISS』で純愛を描いた理由 ベテラン作家の未来への手紙

『ファーストキス』坂元裕二が純愛を描く理由

 今回の『ファーストキス』もロマンチックなラブストーリーで、シリアスな社会派ドラマが全盛の時代にこういう甘い映画をぬけぬけと作ってしまうことに感動と困惑を同時に感じた。

 この作風の変化に対しては、トレンディドラマが成立した1980年代の豊かだった日本への郷愁を感じると同時に、分断が加速し経済と文化がどんどん貧しくなっていく現在の日本社会に対する強烈なカウンターだと感じる。

 だが、10年前の『問題のあるレストラン』が今観た方がしっくりくるように、『クレイジークルーズ』や『ファーストキス』といったトレンディドラマに回帰した作品も、数年後に観たほうがしっくりくる可能性は大きい。

 『ファーストキス』の終盤に、駈が書いた手紙をカンナが読む場面がある。手紙は坂元裕二が作中で好んで使用する小道具だが、過去の人間が現在の人間に気持ちを届けようとする手紙は、タイムマシンのようなものではないかと、本作を観て感じた。

 坂元裕二の書く物語もまた、未来の私たちに宛てた手紙なのかもしれない。

■公開情報
『ファーストキス 1ST KISS』
全国公開中
出演:松たか子、松村北斗、リリー・フランキー、吉岡里帆、森七菜、YOU、竹原ピストル、松田大輔、和田雅成、鈴木慶一、神野三鈴
脚本:坂元裕二
監督:塚原あゆ子
企画・プロデュース:山田兼司
制作プロダクション:AOI.pro
配給:東宝
©2025「1ST KISS」製作委員会
公式サイト:https://1stkiss-movie.toho.co.jp/
公式X(旧Twitter):https://x.com/1STKISSmovie
公式Instagram:https://www.instagram.com/1stkissmovie/
硯カンナの備忘録Instagram:https://www.instagram.com/kaki_to_peanut/

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