松村北斗が映画界で“無双状態”に 『ファーストキス 1ST KISS』硯駈役がハマり役な理由

このキャラクターを演じるうえで重要なのは、セリフを交わす相手とのリズムやテンポなのではないだろうか。セリフ量が多いこともあって、できるだけフラットな心身の状態を維持するのが要なのではないかと思うのだ。
松村のフラットな心身を媒介としているからこそ、坂元が紡ぎ出した珠玉の言葉たちはより高純度で対面する相手に届き、そして私たち観客の元へと届く。松村がスタティックな演技に徹しているからこそ、カンナを前にした駈のダイナミックな心の動きが、これでもかというほど私たちに伝わってくる。人の感情というものは目に見えないものだ。しかしこの松村の場合、それがスクリーン上にありありと浮かび上がってくる。そんな駈のピュアネスを前にしていると、どうにも涙が止まらなくなるのだ。彼の未来を知っているからというのももちろんあるのだが。

ここ数年の松村といえば、映画界において無双状態にあるといえるだろう。岩井俊二監督による3時間におよぶ力作『キリエのうた』(2023年)では喪失感を抱えながら生きる青年を演じており、三宅唱監督の『夜明けのすべて』(2024年)では精神疾患によって生きづらさを感じている青年が少しずつ日々に希望を見出していくさまをチャーミングに演じていた。それに新海誠監督の『すずめの戸締まり』(2022年)では物語の中心人物を声だけで表現してみせたし、さらには新海監督が2007年に手がけたアニメーションの実写化映画である『秒速5センチメートル』の公開も控えている。出演作が多いわけではないが、間違いなく現在の映画界の最重要人物のひとりであり、見る人によっては“無双状態”だと映るはずである。
松村の静かな演技はいつも、キャラクターの感情を私たち観客に押しつけるのではなく、そっと差し出す。それを受け取るのかどうかは観客しだいだ。私の場合は“松村北斗=硯駈”がすっかりこの心に住み着いてしまった。だから劇場で受け取った“彼ら”の感情は、ふとした瞬間にこの心を揺さぶり、涙を流させるのである。
■公開情報
『ファーストキス 1ST KISS』
全国公開中
出演:松たか子、松村北斗、リリー・フランキー、吉岡里帆、森七菜、YOU、竹原ピストル、松田大輔、和田雅成、鈴木慶一、神野三鈴
脚本:坂元裕二
監督:塚原あゆ子
企画・プロデュース:山田兼司
制作プロダクション:AOI.pro
配給:東宝
©2025「1ST KISS」製作委員会
公式サイト:https://1stkiss-movie.toho.co.jp/
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硯カンナの備忘録Instagram:https://www.instagram.com/kaki_to_peanut/





















