片岡愛之助の暗い情念が日曜を面白くする 『半沢直樹』黒崎にも重なる『べらぼう』鱗形屋

片岡愛之助の暗い情念が日曜を面白くする

 NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合、以下、『べらぼう』)第5回で、横浜流星演じる蔦重こと蔦屋重三郎は板元を目指すべく、鱗形屋(片岡愛之助)抱えの「改」となった。

 片岡愛之助演じる鱗形屋孫兵衛が初めて登場したのは第2回。吉原を立て直すための策として「吉原細見」に目をつけた蔦重から、鱗形屋は相談を受ける。鱗形屋は、蔦重が平賀源内(安田顕)から「序」をもらってくることができれば掲載すると約束し、中身を改める作業も「おめえさんがやるならいいよ」と条件付きだが快い返事をした。第2回での鱗形屋の言動は、「鱗形屋」の仕事を蔦重にちゃっかり手伝わせたともいえるが、本作りを駿河屋市右衛門(高橋克実)に反対されていた蔦重にとって心強い味方となりそうな雰囲気があった。

 ところが、続く第3回の終わり、蔦重が入銀本『一目千本』を見事完成させたと知るや、その表情に“暗い情念”が浮かび上がる。そして第4回では、西村屋(西村まさ彦)と結託し、売れる錦絵の販売を独占するために蔦重を板元から外した。

「俺はよ、あいつごと、この吉原を丸抱えにしてえのよ」

 西村屋とひそかに祝杯を上げる中、鱗形屋はこう言った。蔦重の機転と商才を認めているからこそ、蔦重をうまく利用することで業界を牛耳りたいのである。

 鱗形屋は蔦重の立場を思うと憎たらしい役なのだが、片岡はそんな鱗形屋を魅力的に演じている。第2回で蔦重に仕事を任せる描写に鱗形屋の真意を漂わせつつ、蔦重の行動力に感心する様は決して嘘には見えない。本作りへの情熱なしに地本問屋の仕事をしているわけではなさそうだ。とはいえ、片岡のまなざしにしばしば表れる“暗い情念”にはゾクゾクする。

 第5回の終わり、鱗形屋お抱えの改になるという誘いを受けることにした蔦重に、鱗形屋は「俺ぁ、おめえさんの才を高く買っている」と告げた。「お互い、うまくやっていこうぜ」という台詞の言い回しには、蔦重を利用しようという意気込みからか、どこか余裕が感じられる。だが、片岡の演技が真に光るのは、その後鱗形屋が見せた感情の機微にある。

 「よろしくお願いいたしやす!」と頭を下げる蔦重に向けた片岡の目と口元の演技が目を惹く。蔦重にフッと微笑みかける表情には新たに見つけた本作りの同志への思いが感じられるが、その目にはやや険がある。険のある目つきには蔦重の才を警戒し、その存在を牽制するような心情がうかがえ、蔦重と向き合う鱗形屋の複雑な心境が伝わってきた。「蔦重ごと吉原を丸抱えにしたい」と言っていたが、実際のところは、そうやって囲い込まないと蔦重の才能に呑まれると感じたのではないか。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる