バカリズム作品に共通する2つのジャンル 『ホットスポット』の会話劇は“SF×あるある”

『ホットスポット』は“SF×あるある”ドラマ

 もう一つは、あるあるネタが散りばめられた会話劇。信用金庫で働くOLの日常を淡々と見せる『架空OL日記』(読売テレビ)がその筆頭だが、数人の女性が延々と無駄話をしている姿を描かせるとバカリズムの筆致は冴え渡る。

 女性の会話劇を得意としているドラマ脚本家は多いが、バカリズムが書く会話劇は作為がなく、まるで喫茶店で喋っている人の会話を盗み聴きしているかのような面白さがある。この作為の無さは、映像も含めたドラマのトーン全体にも言えることで、意識的にドラマらしさを削ぎ落としており、だからこそ、宇宙人が遠い場所から人間を冷静に観察しているような距離感が存在する。だからと言って冷淡な印象が薄いのがバカリズム脚本の面白さで、冷たくなりすぎない優しい微温感があるからこそ、安心して作品を楽しめる。

 つまり、SF&ゲーム的なアイデアと、微温感のある会話劇を用いた精密な日常描写がバカリズムの作家性の根幹にある。この二つを同時展開することでヒット作となったのが、33歳の女性が満足の行く人生を過ごすためにタイムリープを繰り返す姿を描いた『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)だった。


 一方、『ホットスポット』は『ブラッシュアップライフ』で確立した、SF的アイデア+日常という形式は踏襲しているが、ゲーム的な要素が今のところ希薄なため『架空OL日記』に近いものとなっている。その意味で感心したのはビジネスホテルで働く清美の描き方だ。

 第4話では、シャワーのお湯が出なくなったことで客からクレームを受けた清美が、高橋に頼らず自力で給湯器を直そうとする。説明書を読んで黙々と給湯器の修理をする彼女の姿が素晴らしく、バカリズムの仕事描写の解像度の高さに改めて驚かされた。

 このように第4話までの印象は、バカリズムが得意とする「あるあるネタ」を散りばめた淡々とした会話劇としての側面が強い。

 おそらく今後は高橋以外の宇宙人が多数登場し、SFドラマとしての要素が強まっていくと思うのだが、その時に微温感のある幸せな日常が大きく変質していくのか、今と同じ日常が延々と続いていくのかが、気になるところである。

『ホットスポット』の画像

ホットスポット

『ブラッシュアップライフ』チームと脚本・バカリズム再びタッグを組むオリジナルドラマ。ビジネスホテルに勤めるシングルマザーの主人公・遠藤清美が、ある日、ひょんなことで宇宙人に出会ったことから物語が展開していく。

■放送情報
『ホットスポット』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30~放送
出演:市川実日子、角田晃広(東京03)、鈴木杏、平岩紙、田中直樹、夏帆、野呂佳代、小日向文世、白石隼也
脚本:バカリズム
演出:水野格、山田信義、松田健斗
プロデューサー:小田玲奈、小田井雄介、櫻井雄一、野田健太
チーフプロデューサー:道坂忠久
音楽:fox capture plan
企画協力:マセキ芸能社
制作協力:ソケット
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/hotspot/
公式X(旧Twitter):https://x.com/hotspot_ntv
公式Instagram:https://www.instagram.com/hotspot_ntv
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@hotspot_ntv

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