「続きはまた明日」があれば生きていける 大石静が『光る君へ』で描ききった“物語論”
NHK大河ドラマ『光る君へ』が12月15日に最終回を迎えた。本作は、平安時代を舞台に『源氏物語』の作者として知られる紫式部ことまひろ(吉高由里子)の半生を描いた物語。
散楽を見ていた幼少期のまひろ(落井実結子)と後に藤原道長(柄本佑)となる三郎(木村皐誠)の出会いから二人の壮大な物語は始まる。一方、劇中で描かれるのは貴族たちの血で血を洗う熾烈な権力闘争。そして都の外では天災、飢饉、疫病が次々と起こり、庶民は苦しみに喘いでいる。戦乱こそなかったが、そこには「煌びやかな地獄」とでも言うような格差の広がる美しくも残酷な世界が広がっていた。
そんな地獄のような世界でまひろと三郎は心を通わせ「一緒に都から出て、どこか遠くへ行きたい」と一度は願う。だが、二人が仲良くしていた散楽一座の座員で義賊の直秀(毎熊克哉)が無惨に殺される場面に直面したことで、二人の考えは変化。まひろから政で国を変えてほしいと言われた三郎は、その後、藤原道長として権力の座を上り詰め、摂関政治を行うようになる。
そして、まひろは道長から依頼され『源氏物語』を執筆する。『源氏物語』をめぐって起きる展開の数々は、脚本家・大石静にとっての物語論のように感じた。
道長が『源氏物語』をまひろに書かせたのは、藤原定子(高畑充希)の死を悼む一条天皇(塩野瑛久)に献上するためだったが、やがて道長の娘で中宮の彰子(見上愛)も読んでみたいと思うようになる、12歳で入内した彰子は精神的に幼く人を愛する気持ちが理解できなかった。しかし『源氏物語』を読むことで人を愛する気持ちを理解し、一条天皇に「お慕い申しております」と改めて告白。彼女の気持ちを受け止めた一条天皇は彰子と結ばれ、やがて子供を授かる。
藤原彰子は本作でもっとも成長を遂げた人物で、道長が出家した後は国母として摂関政治を支えるようになる。
『源氏物語』は彰子に愛を教え、彼女を覚醒させた。そこには物語が人を変えるという側面と、物語が政争の道具となり得るという側面が同時に現れていた。
そのことはききょう(ファーストサマーウイカ)こと清少納言が藤原定子のために『枕草子』を執筆する場面でも先駆けて描かれていた。
最終話でききょうは、まひろに『源氏物語』も『枕草子』も「一条天皇の心をより動かし、政でさえも動かしました」とお互いを称え、まひろもまた「米や水のように、書物も人になくてはならないものですわ」と言う。
人の心を動かすということは、同時に政治も動かすことだ。その根底に「物語」があるということは、安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)が陰陽道の呪術の力によって貴族たちの日常に影響を与え、天変地異が起きた時に人々が納得するための方便として利用されていた序盤にも強く現れていた、安倍晴明の退場と入れ替わるように『源氏物語』を執筆するまひろの影響力が増していくのだが、これは偶政治を駆動する力が「呪い」から「物語」へ移譲したことを表していたのだろう。