『3000万』は“夢”を巡るドラマだった 決して他人事ではないすぐそばに広がる闇
本作は「夢」を巡るドラマだと思う。第1話で描かれた、ミュージシャンとして成功するチャンスを逃した義光(青木崇高)が捨てきれずにいた、幻に終わったライブチケットの束を札束に見せかけることで窮地を脱する夫婦の姿。彼の捨てきれない夢は、夫婦の「3000万」という夢にすり替わる。
でもこの時点で夢は同時に幻でもあると暗示が為されているにもかかわらず、夫婦は気づかず、抜け出すことのできない泥沼にはまってしまう。次に蒲池(加治将樹)を殺してしまった、ソラと祐子が度々見る悪夢。排水溝に溜まったゴミが浮遊する様子からも、フライパンを見ても甦る、殺した記憶。それは後ろめたさとも罪悪感とも言う。闇バイトから抜け出せない人々が「組織からの解放」を報酬として、黒幕・穂波悦子を捜索する過程で流れるのは井上陽水「夢の中へ」。人々は、大金という夢のために道を踏み外し、抜け出せなくなり、やがてそれらから解放されること自体が夢になる。尽きない夢を見る人々の欲望の航路は、平凡な日常を送っていた祐子から、強盗組織のトップ・穂波悦子まで繋がった。
祐子が視聴者に近い存在として描かれている一方で、組織のトップ・悦子もまた、祐子と似ている。同年代と思しき2人が対話する最終話は、まさに、悦子と祐子という2人の人物を同列の存在として可視化する目的があったのだろうと思う。札束の匂いを「確認のため」嗅ぐ悦子の姿を見て、祐子はかつての自分の姿を幻視する。「私一人を捕まえたところで何にも変わらない。また他の誰かが始めるだけ」と悦子が野崎に言うように、もし最後に「バレなきゃいい」と祐子がそのまま突き進んだら、彼女もまた、第2の「穂波悦子」になる可能性だってある。「エンドレス」。夫婦が一瞬で落ちてしまった闇は、すぐそばに広がっているのかもしれない。視聴者もまた、他人事ではないのである。
■配信情報
土曜ドラマ『3000万』
NHK+、NHKオンデマンドにて配信中
出演:安達祐実、青木崇高、清水美砂、野添義弘、愛希れいか、森田想、内田健司、木原勝利、萩原護、山岸門人、味元耀大、花王おさむ、伊藤正之、長友郁真、加治将樹
脚本:WDRプロジェクト(弥重早希子、名嘉友美、山口智之、松井周)
演出:保坂慶太、小林直毅
制作統括:渡辺哲也
プロデューサー:上田明子、中山英臣、大久保篤
写真提供=NHK