『ダンダダン』第7話が放つ美しさと優しさ ギャグから悲劇まで、“緩急”が光る神回に
第7話「優しい世界へ」の忘れがたい美しさと優しさ
ここまで非常に緻密で情報量の多い映像を作り上げているサイエンスSARUだが、第7話はとりわけ出色だ。「優しい世界へ」というサブタイトルのこのエピソードでは、白鳥愛羅にまとわりついていた悪霊、アクロバティックさらさら(以下、アクさら)の過去が描かれる。心臓が止まってしまったアイラを救うために、アクさらが自分のオーラを使えとモモに促し、モモがそのオーラに触れた時、彼女の生前の過去がフラッシュバックする。
アクさらは、シングルマザーで仕事を掛け持ちし、売春までしながら、幼い娘とのささやかな暮らしを守っていたが、借金取りのような連中に娘をさらわれてしまう。そのような悲劇をアニメは、幼い娘のほうれい線まで描くリアル調の作画で表現し、これが現実にも起こる悲劇だと伝えるかのような生々しいシーンとして描いている。
この理不尽から生じる悲劇を最大限に印象づけるために、サイエンスSARUと本エピソードの絵コンテと作画監督を務めた榎本柊斗は、生前のアクさらの美しい部分を強調した。原作では、生前のアクさらはバレエダンスをしながらビルから飛び降り、その最期を迎えるが、このシーンをアニメはこの上なく美しく描いた。これはモモが彼女の魂に触れて見ている景色だ。同じサイエンスSARUの『きみの色』を彷彿とさせる流麗な作画で表現されているが、彼女の魂は悪霊時の姿とは異なり美しいのだということを、映像と音楽の力で表現しきった。その美しさは、醜い悪霊になっても消えなかったのだ、という感動のエピソードに仕立ててみせた。
ターボババアも少女たちの地縛霊を鎮めていたことが示唆されたが、悪霊となるには何らかの事情があり、そこには世の中の理不尽や不平等がある。『ダンダダン』という作品は、それを描くことを忘れていない。ただ、表層的にオカルトを扱っているわけではないのだ。
この感動のドラマこそ、『ダンダダン』の最大の魅力ではないか。ギャグもラブコメの楽しさも生きていればこそだ。悪霊という死をまとった存在と対峙する本作は、ただ楽しいだけではない、理不尽への怒りと悲しみを称えたドラマでもある。
アイラはピンク色の髪色が特徴のキャラクターだ。そしてアクさらのオーラの色は紫がかったピンク色。そのオーラの色によっても2人の絆は表現される。モノクロのマンガではできない表現をアニメで取り入れ、その魅力を映像として見事に立ち昇らせた。サイエンスSARUの技術と演出力の高さを、発揮した見事なエピソードとして記憶されることになるだろう。
■放送情報
TVアニメ『ダンダダン』
MBS/TBS系にて、毎週木曜0:26~放送
キャスト:若山詩音(モモ/綾瀬桃)、花江夏樹(オカルン/高倉健)、水樹奈々(星子)、佐倉綾音(アイラ/白鳥愛羅)、石川界人(ジジ/円城寺仁)、田中真弓(ターボババア)、中井和哉(セルポ星人)、大友龍三郎(フラットウッズモンスター)、井上喜久子(アクロバティックさらさら)、関智一(ドーバーデーモン)、杉田智和(太郎)、平野文(花)
原作:龍幸伸(集英社『少年ジャンプ+』連載)
監督:山代風我
シリーズ構成・脚本:瀬古浩司
音楽:牛尾憲輔
キャラクターデザイン:恩田尚之
宇宙人・妖怪デザイン:亀田祥倫
アニメーション制作:サイエンスSARU
オープニングテーマ:Creepy Nuts「オトノケ」
エンディングテーマ:ずっと真夜中でいいのに。「TAIDADA」
©龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会
公式サイト:https://anime-dandadan.com/
公式X(旧Twitter):@anime_dandadan