ディーン・フジオカが背負った『ラストマイル』のテーマ “感情”を抑えた表現で持ち味発揮

『ラストマイル』ディーン・フジオカの無情さ

 これまでにもディーンは、いくつもの作品で心の内の読めない、換言すれば“人間らしさの希薄なキャラクター”を多く演じてきた。たとえば、2018年公開の主演映画『海を駆ける』で演じた、インドネシア・スマトラ島の海岸に突如現われた男性の役など、その最たるものだろう。本心がどこにあるのか、いったい何を考えているのか分からないキャラクターというのは、彼の得意とする役どころではないだろうか。系統こそ違えど、『ラストマイル』で演じる五十嵐はこの系譜に連なるものだと思う。

ディーン・フジオカとは一体何者なのか? 『海を駆ける』が映し出す、不条理で魅惑的な世界

画面いっぱいに広がった凪いだ海から、ひとりの男が現れるーー『海を駆ける』は、そんなふうにして幕を開ける。  前作『淵に立つ』で…

 では五十嵐とは何者なのか。本作は物流業界の負の側面を描いた作品だと先述した。物流業界とはつまり、この社会や世界の一部だ。五十嵐がこの業界を統べる人物かというと、そうではない。彼もまた物流業界の、ひいてはこの社会や世界の、ひとつのピースに過ぎない。このことに気がついた私たち観客は、“ディーン・フジオカ=五十嵐道元”に対する見方が変わってくるに違いない。彼がこの業界に心と身体を捧げ、“一体化”しているのにやがて誰もが気づくだろう。

 未曾有の事態に挑む舟渡エレナと梨本孔、それから『アンナチュラル』や『MIU404』の面々の闘いは、本作が持つテーマをそれぞれ体現している。そのいっぽうでディーンが演じる五十嵐もまた、現代社会が生み出したこの巨大システムの暗い部分を体現している。彼も本作の持つテーマのひとつを背負っているのだ。最後の最後まで“感情”を抑えた表現が白眉である。

■公開情報
『ラストマイル』
全国東宝系にて公開中
出演:満島ひかり、岡田将生、ディーン・フジオカ、大倉孝二、酒向芳、宇野祥平、安藤玉恵、丸山智己、火野正平、阿部サダヲ
『アンナチュラル』:石原さとみ、井浦新、窪田正孝、市川実日子、竜星涼、飯尾和樹(ずん)、吉田ウーロン太、薬師丸ひろ子、松重豊
『MIU404』:綾野剛、星野源、橋本じゅん、前田旺志郎、麻生久美子
監督:塚原あゆ子
脚本:野木亜紀子
主題歌:米津玄師「がらくた」
制作プロダクション:TBSスパークル
配給:東宝
©2024「ラストマイル」製作委員会
公式サイト:https://last-mile-movie.jp/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/last_mile_movie
公式Instagram:https://www.instagram.com/last_mile_movie/
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@last_mile_movie

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる