『ベイマックス』にみなぎる“ヒーロー作品”としての熱い精神 感動的なヒロとタダシの関係
何より、とぼけた性格と親しみ深い体型、さまざまな動きを見せてくれるベイマックスは、いつまでも眺めていることができるくらいに魅力的。この魅力を表現し得ただけでも、本作は成功だと感じられるほどだ。特徴的かつシンプルな顔のデザインには、ドン・ホールが来日した際、新宿の花園神社の境内に下がる大きな鈴のイメージが反映されているという。それを実際にかたちにしたのは、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』や『ガンダム Gのレコンギスタ』などのアニメ作品で、キャラクターやメカのデザインを担当してきた、コヤマシゲトである。
さらに、日本が舞台だったところも、本作では刷新。サンフランシスコと東京をドッキングしたような、多国籍な雰囲気の近未来都市「サンフランソウキョウ」が新たに生み出された。地形やランドマークは、いかにもサンフランシスコのイメージだが、随所に日本風の意匠が施されている。これは、大地震によって一時崩壊したサンフランシスコを、日系人たちが修復したことで蘇った設定があるのだという。カリフォルニアの「ディズニー・カリフォルニア・アドベンチャー・パーク」では2023年から、「サンフランソウキョウ・スクエア」として、この個性的な街並みが再現されている。
こういった、原作からのさまざまな改変によって本作は、より広い層の観客に訴求する内容となったといえるが、なかでも注目したいのは、エモーショナルな物語だ。そして、そこにはやはり、「ヒーロー作品」としての熱い精神がみなぎっている。
なかでも感動的なのは、14歳で大学に入学にできるほどロボット工学に精通しているヒロと、ベイマックスを作り上げた、兄のタダシとの関係を描くエピソードである。ヒロはあるとき大きな喪失を味わい、自身が開発した「マイクロボット」を悪用するヴィランとの戦いに身を投じることになる。しかし、そのなかで本来の自分を見失い、人を傷つけようともしてしまう。だが、そこでヒロは、タダシの言葉や、タダシの作り上げたケア・ロボットのベイマックスに込められた、「人を助ける」という意志と理想にあらためて触れることで、“正しい(タダシ)”姿勢を受け継ぎ、真の“ヒーロー(ヒロ)”になるのだ。
「ヒーローとは何か」という問いかけは、何度も何度も、さまざまなヒーロー作品のなかで投げかけられてきた。そしてその答えは、どの作品もほぼ同じものだ。そう、それは「人を助ける」という考え方を持つことである。そのように考えれば、たとえスーパーパワーを持っていなくとも、メカによる圧倒的な技術力がなくとも、誰でもヒーローになれるはずだ。その献身的な姿勢を示すものとして、「ケア・ロボット」という存在を考案したことで、本作はヒーロー作品の本質を表現することにも成功したといえるだろう。
ディズニープラスでは現在、スピンオフ作品として、『ベイマックス・ザ・シリーズ』(2017年)、『ベイマックス・ザ・シリーズ ショーツ』(2018年)、『ベイマックス&モチ』(2019年)、そしてシリーズ『ベイマックス!』(2022年)が配信されている。これだけコンスタントに新作が製作されていることからも、『ベイマックス』の人気は高いことがうかがえる。
面白いのは、最新シリーズ『ベイマックス!』の原題が、『Baymax!』であることだ。日本では本作『Big Hero 6(ビッグ・ヒーロー・シックス)』を『ベイマックス』という邦題に変えたが、本国アメリカでも同じくベイマックスの名前を新たなタイトルに選んだのである。やはり、ベイマックスというキャラクターに注がれる愛は、本国アメリカでも変わらないのだ。
■放送情報
『ベイマックス』
日本テレビ系にて、9月6日(金)21:00~22:54放送
※放送枠40分拡大 ※本編ノーカット
監督:ドン・ホール、クリス・ウィリアムズ
製作:ロイ・コンリ
製作総指揮:ジョン・ラセター
脚本:ジョーダン・ロバーツ、ダニエル・ガーソン、ロバート・L・ベアード
音楽:ヘンリー・ジャックマン
声の出演:菅野美穂(キャスおばさん役/マーヤ・ルドルフ)、小泉孝太郎(タダシ役/ダニエル・ヘニー)、川島得愛(ベイマックス役/スコット・アツィット)、本城雄太郎(ヒロ役/ライアン・ポッター)、新田英人(フレッド役/T・J・ミラー)、浅野真澄(ゴー・ゴー役/ジェイミー・チャン)、武田幸史(ワサビ役/デイモン・ウェイアンズ・Jr.)、山根舞(ハニー・レモン役/ジェネシス・ロドリゲス)、金田明夫(ロバート・キャラハン役/ジェームズ・クロムウェル)、森田順平(アリステア・クレイ役/アラン・テュディック)
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