いま観ることでより深まる『天空の城ラピュタ』のテーマ 宮﨑駿監督の姿勢と試みを読み解く

宮﨑駿監督の『天空の城ラピュタ』での試み

 「愉しきかな、血湧き肉踊る、漫画映画」……『天空の城ラピュタ』(1986年)公開当時のパンフレットに、宮﨑駿(当時は宮崎駿表記)監督のメッセージとともに書かれたキャッチコピーだ。宮﨑監督は、「古典的骨格を持つ冒険物語を、今日の言葉で語れないだろうか」と、ここであえて、日本における「アニメーション」の古い言い回しである「漫画映画」という言葉を使用し、『天空の城ラピュタ』という作品の核心と存在意義を表現している。

 日本のアニメーションの一角を代表する「スタジオジブリ」。世界的に名を知られている、このスタジオの、記念すべき第1作となったのが、本作『天空の城ラピュタ』である。吉祥寺のビルに間借りするかたちでスタートした、このスタジオは、天才的なアニメーターにして、いまでは世界的映画監督として、その名を轟かしている宮﨑駿、そして高畑勲監督のために作られた製作現場として知られている。

 元スタジオジブリの制作進行・木原浩勝によると、宮﨑監督は当時、「この作品は絶対に失敗できない」と、ことあるごとにつぶやいていたという。自分のためのスタジオというプレッシャーが、宮﨑監督を追いつめていたことが窺えるエピソードだ。45歳だった監督は、この製作期間に頭頂部から白髪が増えていき、作品完成時には白髪になっていたのだという。

 だからこそ本作は、万人が楽しめる王道の冒険譚として製作されたのだろう。そして、これまで宮﨑が手がけた『ルパン三世』のTVシリーズや劇場版の活劇としての娯楽性、TVアニメ『未来少年コナン』の少年と少女をめぐる冒険の物語、『風の谷のナウシカ』(1984年)のようなファンタジックな設定と反戦・環境問題のテーマ、東映動画時代の『どうぶつ宝島』(1971年)の宝探しロマン、そしてTVアニメ『アルプスの少女ハイジ』の丹念な生活描写などを含む、まさに当時の宮﨑の総決算といえるものとなっている。

 ここでは、そんな本作『天空の城ラピュタ』の内容と価値を振り返りながら、いまこの作品を観ることでより深まるテーマとは何なのかを考えていきたい。

 驚くのは、物語の展開が極めて目まぐるしいという点だ。生活描写や会話シーンなどが断続的に含まれるものの、物語のヒロイン、シータが飛行船から落下するというピンチから始まり、基本的には危機また危機の連続で進行し、あっけに取られているうちにラストまでなだれ込んでいく。その内容は、映画史の初期における短編シリーズ作品「連続活劇」を思い起こさせる。ジョージ・ルーカスやスティーヴン・スピルバーグ監督は、この「連続活劇」の魅力を、自作の『スター・ウォーズ』シリーズや『インディ・ジョーンズ』シリーズで応用したように、宮﨑監督もまた「漫画映画」の復権として、同様の試みをおこなっていたと思われる。

 そんな、娯楽的かつ実験的な試みをさらに極端なものにしたのは、宮﨑監督ならではの制作手法にも関係している。「準備稿」という大まかな脚本は用意されているが、具体的な内容は絵コンテを描きながら監督自身が考案していくという、ある種ライブ的とも、そのときそのときの思いつきが反映した「インプロビゼーション」ともいえる流れで、宮﨑監督個人のイマジネーションが反映していくのである。これは、アニメというより漫画家の制作に近いといえ、アニメでこれを実現させようとすれば、監督自身がスタッフたちのなかで、物語作家として、アニメーターとしても突出した能力を持っている場合にのみ有効な手法だといえるだろう。だからこそ宮﨑作品は、場面場面で印象的な作劇やアクションを連続させられ、本作でも「名シーン」と呼べる箇所が多くなったのである。

 そういった手法と、通俗娯楽を目指す方向性が重なったことで、本作『天空の城ラピュタ』はある意味、ひたすらな娯楽表現のパッチワークに見えてしまうところもある。批評家筋からの本作の評価は、あの蓮實重彦すらも評価した『風の谷のナウシカ』と比べると、それほど芳しくなかったようである。そして意外なことに興行収入も、歴代のジブリ作品のなかでは、次作を制作できるほどには稼いだものの、現在ワースト3位という成績となっている。これは、アニメファンの間では注目されていたものの、一般的に宮﨑監督がまだまだ知られていなかったという、当時の事情もあるだろう。

 だが、そんな評価を大きく覆し、作品としての素晴らしさを誰もが認めることになるタイトル『となりのトトロ』(1988年)や、スタジオジブリが国民的な劇場アニメとして大ヒットを始めた『魔女の宅急便』(1989年)の登場は、その状況を大きく変えるものとなった。そして度重なるTV放送によって、『天空の城ラピュタ』もまた重要な作品として再評価され、何より視聴者を惹きつける要素にあふれていることから、いまではスタジオジブリの代表作の一つといえる地位を獲得することとなったのだ。

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