『虎に翼』“ファーストペンギン”寅子が歩む地獄の道 新潟編は“母”としての伊藤沙莉に注目

『虎に翼』寅子が歩む地獄の道

 この状況でなによりしんどいのは、彼女に共感し、ともに怒ったり泣いてくれる人が存在しないことだ。理不尽な怒りをぶつけられても、家族から責められてもそのすべてを寅子はひとりで受け止め続ける。ともに学んだよね(土居志央梨)や香淑/香子(ハ・ヨンス)、梅子とは微妙に距離が生じているし、法曹界での成功者とみなされている彼女が道半ばにして立ち止まっている旧友に愚痴をこぼすわけにもいかない。厳しくも優しい言葉をかけてくれる母・はる(石田ゆり子)もそのままの寅子を100パーセント受け容れ包んでくれる優三(仲野太賀)も今は隣にいない。もし優三が生きていたら、またあの河原でひとしきり泣いたあと、ふたりで美味しいものを食べ笑い合えただろう。でもそれはもう叶わない。

 女性法律家としての先駆者であるがゆえ、横に並びともに歩いてくれる同性の同僚もなく、家族からはもっと家庭を顧みてほしいと望まれ、周囲からは嫉妬の目を向けられる。孤独なファーストペンギンが歩む地獄の道である。もし、寅子が男性であったらここまで多くのものを背負わされただろうか。

 さて、仕事では桂場(松山ケンイチ)や頼安(沢村一樹)により新たな道が提示され裁判官としての土台作りの礎ができた。ではもうひとつの脆弱な土台である家庭はどうか。ともに新潟に居を移しても優未は依然「スンッ」としたままだ。

 これまでの『虎に翼』、娘としての寅子と妻としての寅子については丁寧に描かれてきたが、母としての姿は驚くほどサラっとした描写だった。おそらく新潟編ではここにフォーカスが当たるのだろう。仕事でも家庭でも寅子の新たな戦いの始まりだ。

 そして何があってもきっと私は忘れない。あの日、あの河原で焼き鳥のたれで汚れた新聞に書かれた新憲法の記事を見て寅子の目にふたたび光が宿った時のことを。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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