『9ボーダー』七苗とコウタロウが見出した“幸せの形” 最終回にふさわしい再会に

『9ボーダー』が描き出した“幸せとは”

 一方、コウタロウは陽太(木戸大聖)から鋭い質問を投げかけられる。「いいのか? このままで」。この問いに、コウタロウは深い思いを込めて答える。「全部を捨てることはできない。でもあの街にしかないものが、七苗」という言葉には、自分のルーツとおおば湯での幸せな日々の狭間で揺れ動く彼の複雑な心情が凝縮されていた。その苦しそうな表情から伝わってくるのは、七苗という存在が、彼にとっての幸せの形を決定づける大切な存在となっていること。30歳を迎えた七苗と、2人が“あの場所”で再会するシーンは、まさに最終回にふさわしいラストとなったのではないか。

 人生の岐路に立つとき、私たちは意識的に選択していると思いがちだ。しかし実は、心の奥底に刻まれた忘れられない何かが、無意識のうちに私たちを導いているのかもしれない。

 この物語でコウタロウは特異な存在だった。記憶を失い、何も持っていないように見えた彼。しかしそれゆえに、誰よりも純粋に人々の幸せや街の魅力を感じ取れたのではないか。その意味では、現実世界のあれこれに悩みながら幸せ探しをする3姉妹をよそに、皮肉にも彼が一番幸せに近かったのかもしれない。

 コウタロウと芝田悠斗を繋ぐ架け橋として、松下洸平の表現力は欠かせないものだった。それは彼の演技がセリフ以上に雄弁だったからだ。ふわふわとした雰囲気で周りを包む優しいオーラ、七苗に向ける柔らかな視線。記憶を取り戻し、何も持たない自由さが失われても、その眼差しは変わらない。スーツを着て忙しなく働いていても、彼は芝田悠斗であるとともに、おおば湯で日々を共にしたコウタロウなのだと、私たちに確信させてくれた。

 結局、幸せとは私たちの心に刻まれる「忘れられないもの」なのだろう。日常の些細な瞬間、誰かの優しさ、懐かしい風景。大切なのは、自分らしさを失わず、心に響く瞬間を見つけること。ありのままの自分が胸をときめかせるものに出会えたとき、そこには誰とも比べる必要のない“確かな幸せ”があるに違いない。

■配信情報
金曜ドラマ『9ボーダー』
TVer、U-NEXT Paraviコーナーにて配信中
出演:川口春奈、木南晴夏、畑芽育、井之脇海、木戸大聖、山中聡、伊藤俊介(オズワルド)、内田慈、岩谷健司、箭内夢菜、奥村佳恵、矢崎広、兵頭功海、YOU、松下洸平
脚本:金子ありさ
プロデュース:新井順子
協力プロデュース:阿部愛沙美
演出:ふくだももこ、坂上卓哉
音楽:jizue
主題歌:SEKAI NO OWARI「Romantic」(ユニバーサル ミュージック)
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/9border_tbs/
公式X(旧Twitter):@9border_tbs
公式Instagram:9border_tbs
公式TikTok:@9border_tbs

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