松山ケンイチ、『虎に翼』で異彩を放つ存在に 桂場役で見せる“表現の可能性”
“団子を片手に”というのがミソ。番組公式サイトの桂場の人物紹介欄には「実は甘党」とある。個々人が何を嗜好品とするかはさまざまだが、彼が甘党だというのはキャラクター設定の妙を感じずにはいられない。松山が硬質な演技を展開する中で団子片手に見せたあの一瞬の“ゆるさ”は、石田の言葉の応酬との相乗効果によって出色のシーンとなった。キャラクターを構成する細部をシーンの流れに合わせて最大限に活かしてみせた松山の力量に、「さすが」と唸るしかない。
本作の公式ガイド『連続テレビ小説 虎に翼 Part1』(NHK出版)にて、松山は桂場について「桂場という役は実在の裁判官がモチーフになっていて、その方は剣道家でもあったみたいです。武の精神を持つ人をイメージし、多少のことでは動じない、幹の太い大木のごとくドシっとした佇まいを意識しています」と、演じるうえで意識していることを語っている。さらに「ただ、資料に縛られると役の幅が狭まるので、演じながら表現の可能性を探っています」とも。
松山の語る「表現の可能性」が垣間見えたのは、まさにあの団子屋のシーンがそのひとつなのではないだろうか。自身の思い描くイメージばかりを頑なに守っていては、真のドラマは生まれない。他のキャラクターも同じように生きている物語世界において、他者を受け入れる演技者としての器を持っていること。そして、他者が入ってくる演技の余白を残しておくこと。これが俳優というものなのだと改めて思う。
大河ドラマ『どうする家康』(2023年/NHK総合)では本多正信という、どうにも胡散くさい家康の家臣をひょうひょうと好演していたことも記憶に新しい松山。『虎に翼』はまだまだ続く。これから彼はいったいどんな「表現の可能性」を見せてくれるのだろうか。主演の伊藤との軽妙な掛け合いにも期待大。ともあれ、彼が演じる桂場等一郎はいま、本作の展開を左右する重要なカギを握っている。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK