『虎に翼』を特別な朝ドラにしている3つの画期的な発明 すべてを“平らに”していく物語に
第3週における「毒饅頭殺人事件」の再現では寅子の母・はる(石田ゆり子)が被告・甲子を演じ、優三(太賀)が演じた乙蔵の両親をはるの息子夫婦である直道(上川周作)と花江(森田望智)が演じた。また、第4週においても飼い犬をはるが演じ、途中変更になるが、顔に傷を負った「嫁入り前の女性」の役を父・直言(岡部たかし)が演じている。俳優陣の普段の役柄とのギャップを楽しむという点でも面白いが、与えられた役柄の立場や世代、性別の違いによって生じる、本来変えることができないそれぞれのパワーバランスを、奇想天外なシャッフルによって、調整しているようにも思えるのである。
第3週は「本人のいないところでその人の話を聞くのはよくない」という寅子の発言含め、バランスの良さが際立つ週だった。まずは、これまでの朝ドラで言及されたことのなかった「お月のもの」、つまりは生理についての話題が登場したこと。それだけで画期的なことであるために、そこで話題が終わってしまいがちだが、その本当の効力は第14話にあった。第13話において、よね(土居志央梨)の過酷な身の上話を聞いた寅子たち。第14話で、「私とあんたらは違う」と壁を作るよねに対し、「お月のもの」の話を寅子がすることで、よねが虚を突かれる。なぜなら、何から何まで「自分と違う」はずの「あんた」との共通点を突きつけられたからだ。
その場にいる全員が異なる事情、境遇を抱えた人物であることがはっきりと示されている中で、「地獄の道を行く同志」であること以外で唯一同じ土俵に立っていると言えることを寅子は真っ直ぐに貫いた。さらには「月のものの痛みに効くツボ」をよねが寅子に教え、それを寅子がその場にいた同級生たちに広めることで、よねと寅子は、それを教えてくれた、本来混じり合うことはなかった「上野の歓楽街で働くお姉さんたち」と同級生たち全員を繋げるのである。
さらに、第15話における、よねが花江の弱音を糾弾する場面。そこに生まれたのは、「戦わない女性」花江と、「戦う女性」明律大学女子部の学生たちという構図だ。するとその場にいる人々が、俄かに生じてしまった対立構造を崩そうとするかのように、花江に同調し、それぞれの内に秘めた弱音を吐き出していく。それによってその場にいる女性たちの連帯がますます強まったところで、兄・直道が少しとぼけた調子で穏やかにまとめる。すると、それまで影を潜めていた男性が輪の中に加わったことになり、さらなる深い調和が生まれる。まさに第16話のナレーションではないが、「The 平和」な世界が生まれたのである。
しかし、第16話における「The 平和」な世界自体は、「すぐに化けの皮が剥がれる」というよねの予想も完全に外れたわけでなく、紳士・花岡(岩田剛典)が違う側面を見せてきたことによって、若干の綻びを見せる。一方、第一印象が最悪な轟(戸塚純貴)の、思わぬ好印象。女性たちの「スンッ」だけでなく、男性たちの「スンッ」も描かれている第4週、今度は男性たちが抱えている物語にも目を向けてみたい。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK