『涙の女王』は全てがレジェンド級の面白さ キム・スヒョンの完璧な王子様ぶりにハマる

『涙の女王』は全てがレジェンド級の面白さ

 本作の演出の妙として、物語の序盤から童話を効果的に演出に取り入れているのも興味深い。第3話のエピローグでは、ヒョヌとヘインが新婚旅行でドイツの宮殿を訪れた際の回想が流れ、2人はオスカー・ワイルドの『幸福な王子』について話し合う。そのときの宮殿が、第6話でヘインを追いかけてドイツに現れたヒョヌが、ヘインを見つけて抱きしめ、キスをする感動的な演出に繋がるのだ。

 第10話では、酔ったヒョヌが、「好き、嫌い、好き……」と葉っぱをちぎって占う「葉っぱ占い」をしながら部屋に帰っていく。グリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』の道しるべの石のように、道路に点々と落ちている葉を辿り、母ボンエはヘインの病気を知ることになる。そのことをきっかけに、ヒョヌは心につっかえていた「ヘインの死を喜んでしまった」という重い枷を涙とともに解放させる。それまで自責の念でいっぱいであっただろうヒョヌを、ボンエが叱りつけたことにより、ヒョヌは救われたに違いない。さらにこの葉っぱ占いでヘインへの愛を告白するヒョヌは、酔っぱらっていて大変かわいらしい。

 全編を通して、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの『雪の女王』が、ヒョヌとヘインを表しているように思える。『雪の女王』は、仲のいいカイとゲルダという少年と少女の物語で、心優しいカイは、鏡の破片が眼と心臓に刺さったことで冷たい性格になってしまい、雪の女王に連れ去られてしまう。そんな冷たいカイの心を溶かしたのは、ゲルダの涙だ。ヒョヌとヘインの部屋にはそれぞれ少年と少女の絵が飾ってある。ヘインの部屋の少女は雪の中にいるように見えるのだ。そして、ヘインの調子がおかしくなるときも雪の描写がなされる。

 ヘインに対し冷たい態度を取っていたヒョヌが、元の優しく愛情深いヒョヌへと戻り、ヘインへの愛を再燃させていく。細かいディテールにまでこだわる演出が、観るものの想像力を掻き立てるのだ。『涙の女王』は、ヒョヌとヘインの内面世界を深く反映した視覚的で象徴的な演出も、私たちの心を掴んで離さない人気の理由のひとつなのではないだろうか。

 最後に、キム・スヒョンが制作発表で語っていた「僕だけアクション」の意味が第10話でのカッコいいボクシング姿で答え合わせされた。ウンソンが仕掛けた罠により危機一髪の状況で、ヒョヌはボクシング経験者として見事に敵を倒していく。弁護士で銃の腕も一流で、ボクシングも強く、ヘインにメロメロなヒョヌは完璧な王子様だ。ヒョヌを演じるキム・スヒョンの魅力に酔い、キム・ジウォンのカリスマ性と少女のようなうぶな恋心を応援しながら、ここからのサイダー展開を楽しみにしている。物語の終わりにもたらされるエピローグは、毎回楽しみなご褒美になっている。

■配信情報
『涙の女王』
Netflixにて配信中
出演:キム・スヒョン、キム・ジウォン、パク・ソンフン
原作・制作:パク・ジウン、チャン・ヨンウ、キム・ヒウォン
(写真はtvN公式サイトより)

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「海外ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる