『不適切にもほどがある!』“終わらない”最終回の愛おしさ 連ドラだから許される奇跡
市郎は、第9話の終盤に、墓参りに誘うのとほぼ同じ口調で、昭和にいる「お母さん」純子に会いに行こうと渚を誘う。それによって、第10話の渚は、1984年の「すきゃんだる」のナポリタンを食べながら、純子と会話することになる。そして渚は、昭和という「現時点」における未来であるところの「渚が5歳の頃」に繰り広げられたのだろう「渚のはいから人魚」に纏わるやり取りを、まだ「母親以前」である母親・純子との会話の中に発見し、繰り返すことで、その懐かしさに涙する。純子にとっては初めてのやり取りであるのに関わらず。この、過去現在未来が混然一体となった多幸感。それもまた、ドラマだからこそ許される奇跡なのだ。
9年後の未来を知ってしまっている市郎ほど差し迫ってはないが、人は誰もが皆やがて訪れる「死」に向かって生きている。だから市郎の抱えている問題も、渚の思いも、決して他人事ではない。だからこそ、死に向かっていく最終回ではなく、終わらずに、続いていく最終回が、こんなにも愛おしい。
宮藤官九郎は、本作を通して、生じつつある多くの分断を繋ぎとめようとする物語を描いたのではないか。変わりゆく時代。それゆえに世代間で生じつつある「分かり合えなさ」。また、本来なら生者と死者の間を永遠に分かつ「死」そのもの。変わりつつあるテレビドラマ。植木等の「無責任シリーズ」のように高らかに歌い踊りながら、でも本当は、自身と娘の残された時間に葛藤し、令和の孫と仲間たちの心配をしながら、阿部サダヲ演じる小川市郎は、それらをなんとかこの手で繋ぎ合わせようと奔走する。
本作の特徴とも言える「テロップ」は最後に「2024年当時の表現をあえて使用して放送しました」と記載することで、その黒い画面に、さらなる未来、恐らくは小野武彦版井上が生きる「現在」であるところの2054年の未来を映し、その地点から昭和も令和も等しく俯瞰していた。
■配信情報
金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』
TVer、U-NEXT Paraviコーナーにて配信中
出演:阿部サダヲ、仲里依紗、磯村勇斗、河合優実、坂元愛登、三宅弘城、袴田吉彦、中島歩、山本耕史、古田新太、吉田羊
脚本:宮藤官九郎
プロデュース:磯山晶、勝野逸未
演出:金子文紀ほか
主題歌:Creepy Nuts「二度寝」(Sony Music Labels)
編成:河本恭平、松本友香
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
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