『恋わずらいのエリー』は少女漫画原作の活路となる? “松竹キラキラ映画”の変遷
徹底的にラブコメディの方向に振り切ったことで生まれたもの
オミくんの意外な一面を目撃したエリーが、国語準備室の扉ごと転倒する出会いのシーンから交際への発展、ライバルの登場を経て、いろいろあって別れ話が持ち上がるも、校内イベントを経て仲直りへとたどり着く。こうした流れの劇中で描かれる“要素”は、ほぼすべて原作のどこかに登場したものばかりであり、それらを入れ込んでも108分にまとめられるように器用に変換されている。例えばジャージを持ち出す女生徒を紗羅(白宮みずほ)にすることで、エリーと仲良くなる流れがスムーズになり、レオ(綱啓永)の突発的な登場も彼の飄々としたキャラを巧みに表現する。要の登場で場がかき乱される中盤では、原作とは異なるシチュエーションのもとで原作と同じ理由での別れ話に繋げられる(水族館というロケーションも、映画の舞台の江ノ島を活かしつつ、きっちり原作の要素のひとつである)。
なかでも目を見張るものがあったのは、“スマホの紛失”と“靴ひも”の活かし方である。前者はもちろんオミくんとエリーの出会いのきっかけとして機能するのだが、映画においては要(西村拓哉)との接近にも活用される(原作では没収されたスマホが偶然要の手に渡る流れだったが、映画ではエリーの転倒とスマホを落とすという一連によってオミくんとの出会いと反復される)。また、原作では靴ひもの描写はスポーツ大会の卓球のシーンで一度だけだったはずだ。ところが映画では昇降口でクラスメイトから違う苗字で呼ばれるエリーの本当の苗字を観客に見せる役目を担い、紗羅と仲良くなるきっかけにも要の手にスマホが渡るきっかけにも役に立つ。物語を動かし、エリーの学校での立ち位置を示し、そしていかに彼女がそそっかしいヒロインであるかを証明してくれるのだ。
唯一原作の要素からはっきりと離れていたのは、クライマックスが体育祭から文化祭になったことであろう(イケメンコンテストがテニス大会にシフトするのも、オミくんがかつてテニス部だったという原作要素の延長であり、映画オープニングシーンの反復でもある)。これに関しては従来の少女漫画原作の定型に規則正しく合わせたものであり、花火を打ち上げることの意味付けでもあろう。ちなみにこの花火も、原作の番外編からの引用と抜かりない。もちろんそこで待ち受ける帰結点が、ケンカ別れからの単なる仲直りではなく、恋愛が次のステップへ進むことの示唆である点も原作における2人の心理状態に対して忠実といえよう。
そして何より忘れてはならないのは、この映画が徹底的にラブコメディの方向に振り切っているという点である。2020年代に入ってからの“松竹キラキラ映画”のひとつである『私がモテてどうすんだ』もかなりコメディ路線に振り切った作品ではあったが、その分だけ青春とラブの要素が薄められてしまっていた。しっかりと基本的なジャンルの柱と王道を保ったうえで可能な限りコメディに振り切るというやり方は、東宝の『センセイ君主』以来ではないだろうか。
大体の作品でどこかにドラマ性を求めようとしてしまう傾向があるのは致し方ないことかもしれない。例えば心を閉ざしたイケメンの暗い過去が掘り起こされたりするのがその常套であり、『恋わずらいのエリー』においても原作ではオミくんの中学時代の話がちらりと描かれていただけに、そこを映画として深掘りする選択肢もあったはずだ。しかし、あえてそれをしない。ましてやその過去を知る青葉の登場を最低限に抑えたことで、その方向に進むことも避ける上に、学校外のシーンもかなり限定的。
そうしたなかで、エリーの妄想ツイートを単なる文字情報ではなく漫談ショーのようなテンションで見せることによって、この映画はあくまでもエリーの内心にすべてを注ぎ込んでいるのだと明示される。もちろんエリーのそそっかしさと、演じる原菜乃華の自由自在に動く表情がそれをより強めてくれる。ひたすらエリーのポジティブな思考のもとに動く現在時点での恋模様に焦点が置かれ続け、この世界は完全にヒロインであるエリーを中心に回っている。感動系に落とし込む傾向が強いノベル原作に、少女漫画原作が対抗できる現時点での最善の策は、このように堂々とスラップスティックに徹することしかないのだ。
■公開情報
『恋わずらいのエリー』
全国公開中
出演:宮世琉弥、原菜乃華、西村拓哉、白宮みずほ、藤本洸大、綱啓永、小関裕太
原作:藤もも『恋わずらいのエリー』(講談社『デザートKC』刊)
監督:三木康一郎
脚本:おかざきさとこ
主題歌:NiziU「SWEET NONFICTION」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:『恋わずらいのエリー』製作委員会
配給:松竹
©2024「恋わずらいのエリー」製作委員会 ©藤もも/講談社
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