『変な家』なぜ賛否分かれる評価に? WEBと映画の繋がりが指し示す業界の未来を考える
間取りや部屋の仕掛けを題材にしたミステリーという意味では、宮﨑駿監督の『君たちはどう生きるか』(2023年)のインスピレーション元となった、江戸川乱歩の『幽霊塔』や、また、ホラー小説、書籍を原作とする映画には『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』(2016年)、『事故物件 恐い間取り』(2020年)などがあるように、この手の題材は現在人気が出てきているところがある。『変な家』も、やはりそんな盛り上がりのなかで出現した作品なのだ。
とくに『変な家』は、WEBメディアや動画など、新しい世代の媒体に対応していたことで、既存のミステリーにも含まれていた面白さを、比較的若い受け手に、新鮮なかたちで届けたといえるだろう。それが、小説版のベストセラー、映画版の初登場1位獲得という快挙を生んだ理由だと考えられる。
とはいえ、もともとの記事や動画版における謎解き部分が、『変な家』の面白さのピークであったことも確かではないのか。そこに新たな展開を加えた小説版や漫画版、そして映画版は、どうしても印象が薄まってしまい、衝撃の点で引けをとってしまうのは、致し方ないところがある。だから、雨穴が想定した『変な家』の魅力を、簡潔に、濃厚に楽しむためには、いまのところ記事や動画版がベストなのではないかと思えるのだ。
一方で、ホラーテイストが好みだという観客にとっては、映画版も楽しめる内容になっているともいえるかもしれない。近年は若い世代を中心に、日本のホラー映画がイベント的に楽しまれているところもあり、それを考えると、本作のバランスが間違っているとは言えないところがあるのではないか。実際に興行的な結果も出しているのである。
ホラー演出でいえば、日本家屋の不気味な雰囲気作りや、空き家の中に佇む奇妙な人物の姿の表現が優れているし、陰惨な内容ながら、冷静なキャラクターであるはずの設計士・栗原を演じる佐藤二朗の、ギャグに寄った演技などが、どことなくポップに感じさせるなどの工夫が、若い世代の観客へのアピールとなっているのではないか。さらに日本のミステリーの代表ともいえる映画『金田一耕助』シリーズの主演俳優である石坂浩二が出演しているところは、上の世代の見どころとなっている。ただ、純粋なホラー映画として本作を評価した場合、新鮮な創造性に溢れているわけではないということも、指摘しておきたい。
それよりもむしろ考えさせるのは、『変な家』を生んだ、WEBサイトや動画サイトなど、新しい媒体の表現を、映画という既存の媒体が、どのように受け入れていく可能性があるのかという点である。映画版である本作が、洋画の超大作を超えるヒットを記録したように、日本においてWEBメディア発の作品が話題の中心になってきていることは事実なのだろう。『ちいかわ』や、『おぱんちゅうさぎ』などのSNS生まれの強力なコンテンツも、当然企画が検討されているはずだ。そんな時代に、映画や劇場が生き残っていく一つの道として、ネットとの繋がりや、そこで傑出した作品を効果的に扱えるかという部分が、シリアスな課題になっているのではないか。
こういった風潮は、既存の映画ファンや映画文化にとって危機感をおぼえる部分もあるが、悪いことばかりではないかもしれない。映画産業にとって最も避けたいのは、客足が途絶えてしまうことである。劇場に詰め掛ける観客が増えれば、業界全体の振興に繋がり、他の作品に興味を持つことで多様な映画作品への需要が増えることも考えられる。
逆にネットでは、雨穴のような、じっくりと一つの作品を作り上げるタイプのクリエイターにとって収益化が難しい環境にあり、メディアミックスで既存のメディアに波及することで安定した作品づくりができる事情もある。このように、ネットと映画のクリエイター、双方が生き残っていく道を模索することで、面白い作品、個性的な作品が増えていくのではないだろうか。
参照
※ https://omocoro.jp/kiji/253078/
■公開情報
『変な家』
全国公開中
出演:間宮祥太朗、佐藤二朗、川栄李奈、長田成哉、DJ 松永(Creepy Nuts)、瀧本美織、根岸季衣、髙嶋政伸、斉藤由貴、石坂浩二
原作:雨穴『変な家』(飛鳥新社)
監督:石川淳一
脚本:丑尾健太郎
制作プロダクション:TOHOスタジオ、共同テレビジョン
配給:東宝
©︎2024「変な家」製作委員会
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