『泥濘の食卓』齊藤京子=捻木深愛に引き込まれる 食事シーンが映し出すいびつな人間関係

『泥濘の食卓』齊藤京子の泥濘のような吸引力

 2023年10月期のテレビ朝日系ドラマ『泥濘の食卓』のDVD-BOXが、3月22日に発売された。伊奈子原作のコミックをドラマ化した同作は、主人公の捻木深愛(齊藤京子)が、不倫相手であるバイト先の店長・那須川夏生(吉沢悠)が抱える家庭問題にまで手を伸ばしていく物語。

 深愛は、不倫の事実に気づいていない那須川の妻・ふみこ(戸田菜穂)の弱ったメンタルを支え、自分に想いを寄せる息子・ハルキ(櫻井海音)の相談にも親身になるなど、純粋すぎるがゆえに常軌を逸した行動に出る。溺愛するあまり不倫相手の家庭に入り込んでそこに根を張る“パラサイト不倫”は、ショッキングかつ切ない運命をたどることになる。

 ただ、単に狂気的で泥沼な不倫ドラマに収まっていないところが『泥濘の食卓』の素晴らしさである。特に同作は、二つの点で大きな驚きを与えてくれた。

 一つめの驚きは、捻木深愛を演じた齊藤京子がキャラクターを見事につかんで演じていたところ。

 DVD-BOXにも収録されている特典映像では、深愛の人物像を模索する齊藤の姿が映し出されている。メガホンを取った安里麻里監督は、齊藤の真面目さや一生懸命さが深愛に通じているとし、齊藤本人も素直に思ったことを口にするところなどが似ていると語っていた。その一方、演技経験がそれほど多くない齊藤は当初、自分自身の本質、性格、言葉遣いにキャラクターを重ねてしまいがちだった。

 それでも第3話で、那須川の自宅前で涙を流す場面の演技で開眼するものがあったようだ。齊藤は、人生で一度も声を大きく出して泣いたことがなかったため、深愛がまるで子どものように号泣する様子に違和感を持ったという。「お芝居なのにできない」と戸惑いを覚えたと話すが、それは自分の経験を深愛に重ねて演じようとしていたから。自分の人生を投影する必要がないと気づき、それから殻が破れたと振り返る。演出を担当した角田恭弥監督も「ここまで(撮影を)やってきて、素晴らしい瞬間でしたね」とその好演を評価した。

 しかしこういった俳優としての成長は、本人や監督ら現場レベルでの実感によるもの。私たち視聴者は、第1話から齊藤=深愛にグイグイと引き込まれた。

 なかでも相手のすべてを受け入れてくれそうな深愛の表情。良い意味では優しさや包容力、厄介という意味では来るもの拒まずの雰囲気は、間違いなく齊藤にしか出せないものだ。第1話のホテルの室内の場面では、深愛に見つめられた那須川がドキッとした表情を浮かべ、そのあと膝枕をしてもらう。いい大人が思わず甘えた行動をとる場面だが、齊藤の表情を見ているとそれも納得できてしまう。その顔つきは、その後の深愛とハルキのツーショット場面でも生かされている。学校にも家庭にも居場所がないハルキに、深愛は救いの言葉をかける。そしてまた、すべてを包み込むような表情を見せる。ハルキはそこで彼女を好きになってしまうのだ。

 深愛の表情は、店長という立場の那須川が甘えたり、クールなハルキがコロっと好きになったりするのも納得できる、“説得力ある表情”だ。そこには優しさだけではなく、相手の理性を狂わせる怖さも秘められている。それを体現できる齊藤は、まさに“表情作りの天才”である。同作には何度か齊藤の顔のアップが登場するが、カメラが彼女に寄りたくなる気持ちも分かる。齊藤は、その表情自体が“泥濘”のような吸引力を放っている。

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