『泥濘の食卓』齊藤京子=捻木深愛に引き込まれる 食事シーンが映し出すいびつな人間関係

『泥濘の食卓』齊藤京子の泥濘のような吸引力

 二つ目の驚きは、『泥濘の食卓』というタイトルにも表されているように、食事や料理の場面が物語に深みと膨らみを持たせているところだ。

 誰かのために料理をすること、食べさせること、食べること、そして誰と何をどんなふうに食べるか――。全9話、これを見逃してはならない。なぜなら食事や料理の場面が、対人関係、依存性、自立に大きな影響を及ぼすからだ。

 もっとも強烈なのが、深愛が「メンタルケア」を口実にして那須川の妻・ふみこと仲良くなり、一緒に料理をして、那須川とハルキもまじえて食卓を囲む場面。深愛は後述するが自分の親子関係もあって、本当の家族の在り方をここで実感する。ふみこは深愛の親切心に心を弾ませて食事をする。那須川は、妻と不倫相手を前にした動揺を抑え込んで料理を口に運ぶ。ハルキは、想いを寄せる深愛が父と不倫していることを知っていることから、なかなか箸が進まない。みんな同じものを食べているのにその味わいには大きな違いがあり、料理の甘み、苦味、無味が視聴者のこちらにまで伝わってくるのが実に見事。

 ちなみに食卓下で那須川が深愛にとる“仕草”は、それまでいかにもくたびれた中年男性風情だった彼の生々しいイヤらしさが伺え(深愛を心配しての行動だが、それ以上の意味を感じさせる)、彼の印象を変えていく。料理とそれぞれの関係性が絡めとられた象徴的な場面だ。

 そのほかのエピソードでも、外食を楽しみにしていた深愛に対し、那須川はすぐに彼女をホテルへ連れて行って、とあるメニューを注文するときの拍子抜け感が、お互いが置かれている状況や温度差を浮かび上がらせている。また、ハルキに対して執拗に愛をぶつける尾崎ちふゆ(原菜乃華)が家庭で食べているものや、彼女の手作りする菓子にも明確なメッセージが含まれている。これらはすべて飲食を通して、人への依存性が描かれている。

 なによりすごいのが、同作のもう一つのテーマである毒親問題も料理で表現されている点。深愛の母親・美幸(筒井真理子)は、深愛への愛情が過剰になり、門限を設定したり、人格を否定したりするなど、彼女をとにかく抑圧する。かつて深愛が包丁を握って怪我をして以降、美幸は食事もすべて自分が作るようになった。ただ深愛は、ふみこのもとでこっそりと料理経験を積んでいく。それは、深愛が少しずつ美幸のもとから自立しようとしていることを意味している。深愛と美幸の親子関係がどうなっていくのか。それも終盤のエピソードで、料理を通して描かれているので注視してほしい。

 あらゆる角度から楽しむことができる『泥濘の食卓』。DVD-BOXで本編を鑑賞した後は、特典映像もぜひ観てほしい。同作の世界観をより深く感じることができるはず。一度足を踏み入れたらなかなか抜け出せなくなるドラマである。

■リリース情報
『泥濘の食卓』
DVD-BOX発売中
価格:16,720円(税込)

【映像特典】
・放送直前!「泥濘の食卓」を徹底解説!
・齊藤京子独占単独インタビュー 初回放送直前記念!
・齊藤京子×吉沢悠×櫻井海音 囲み取材会
・TELASAオリジナル
「完全密着!ドラマ「泥濘の食卓」の軌跡!~女優・齊藤京子のすべて~」ep1&ep2
・秘蔵メイキング&クランクアップ
・PRスポット集

出演:齊藤京子(日向坂46)、吉沢悠、櫻井海音、原菜乃華、戸田菜穂、筒井真理子
原作:伊奈子『泥濘の食卓』(新潮社バンチコミックス刊)
脚本:倉光泰子、神田優、安里麻里、伊奈子
演出:安里麻里、角田恭弥
主題歌:ヘッドフォンの中の世界『引き算の美学』(ユニバーサルミュージック)
音楽:横山克
発売元:株式会社テレビ朝日
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
©伊奈子・新潮社/テレビ朝日

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