ジョン・カビラに聞く、アカデミー賞の意義と楽しみ方 授賞式から感じる映画の歴史の歩み
「齢60半ばも超えて、「夢ってなんだろう」と考えさせてくれる瞬間」
――女優賞、男優賞に関してはいかがでしょう?
カビラ:演技力に関しては当然甲乙つけることが不可能ですが、唯一あえて挙げるとすれば、やはり『哀れなるものたち』のエマ・ストーンのインパクトが強烈でした。監督や作品の価値を信じて、全てを委ねて。プロデューサーとしても名を連ねていますから、どれだけ信じて全身で立ち向かったのかがわかります。『哀れなるものたち』は本当に衝撃的でした。衝撃的だけど、笑えるという。こんな稀有な作品はないんじゃないですかね。ジェンダー的に僕は男性で、異性愛者ですが、「男ってなんだろう」と考えさせてもらえるいい機会でした。
――コメディ要素も満載でしたね。
カビラ:そうなんですよね。アカデミーはなかなかダークなものも含めて、ポップなコメディ作品が作品賞を獲るのが難しい傾向がありますが、今回その価値を認めてノミネートしてきたことに関してホッとしました。
――コメディ作品といえば『バービー』ですが、マーゴット・ロビーと監督のグレタ・ガーウィグがノミネーションされなかったことが話題にもなりました。それについてはどう思いましたか?
カビラ:ライアン・ゴズリングじゃないけど、「ありえない」というモーメントでしたね。どなたがどのくらい投票されたのか、内訳はわからないじゃないですか。その情報が公開されないことも含めて、なんとも言えないこのモヤモヤ感を抱きながら(アワードを)観なきゃいけない気持ちはしますよね。ひょっとすると、ジミーもそれをネタにするかもしれません。
――「女性のノミネーション」というトピックも含めて、アカデミー賞を通じて、映画の歴史の歩み、そのプログレスについて感じることはありますか?
カビラ:フランシス・マクドーマンドが『ノマドランド』で主演女優賞を受賞した際のスピーチで「インクルージョンライダー」という言葉を発していて、僕も一瞬「『ライダー』って何のことだろう?」となったんですよね。よくよく考えてみたら「契約書の条項、条文」という意味なんです。つまりダイバーシティを担保した上で制作すべきだ、ということを受賞スピーチの中に織り込んだのが強烈でした。あれが実際の転換点になったのか、今年からそういうダイバーシティが担保されないと候補の資格がないというところまできましたからね。そういう歴史的な瞬間をみなさんと共有できるのも、アカデミー賞ならではです。ただ、後々のインタビューでマクドーマンドは「もう少し多岐にわたって研究したうえで発言すべきだった」と、実はインクルージョンやダイバーシティはもう少し複雑な問題だったということを自己批判している点にも感銘を受けました。本当に真剣に向き合っているんだろうと、逆に感動しました。
――過去の受賞者や作品で印象的だったエピソードは他にありますか?
カビラ:直近だとやはり『パラサイト 半地下の家族』の作品賞受賞の瞬間の衝撃と嬉しさ、あとは『エヴリシング・エヴリウェア・オール・アット・ワンス』ですね。ミシェル・ヨーとキー・ホイ・クァンのお二人も受賞して、去年は“エブエブ旋風”がすごかったし、楽しかったです。特にキー・ホイ・クァンのスピーチも感動的でした。「とにかく、夢をあきらめないで」というメッセージが込められていて、胸を打ちました。夢をあきらめない、それを体現する仕事ってすごいなと改めて思いますよね。そして、その報われる瞬間。ミシェル・ヨーは「これを見ている小さい女の子には夢を諦めないでほしい」、俳優業を退きつつあったけれど再び演じたキー・ホイ・クァンは「夢を本当に諦めないでよかった」と言う。二人のメッセージに、「じゃあ僕はどうなんだろう」「僕の夢ってなんだろう、僕がやりたいことってなんだろう」と自問する機会を与えてもらいました。齢60半ばも超えて、「夢ってなんだろう」と考えさせてくれる瞬間って、素敵すぎるじゃないですか。
――素晴らしいですよね。
カビラ:あと、過去に『それでも夜は明ける』で受賞したルピタ・ニョンゴがスピーチで「私はいま本当に幸せの瞬間にいるけれど、その幸せの瞬間にいる理由にはとてつもない悲劇に苦しんだ人の上にあるってことを一時も忘れたことがない」と言っていて、これもすごい言葉でした。要するに、南部で奴隷として本当に大変な苦労をした女性を演じたが故に、今の自分は受賞の幸せの瞬間を迎えているという。演じることは凄いことだと改めて思いました。それを謙虚に捉えているルピタ・ニョンゴはどれだけ凄いんだろうと。今年も必ずやみなさんの胸を打つスピーチはあると思います。
――最後に、アカデミー賞を楽しみにしている人に限らず、映画ファンに向けて一言お願いします。
カビラ:こう観るべきだとか、こうしなきゃいけないというルールは全く無視して、本当に自由に、ご自分の感覚と興味の赴くままに観ていただきたいですし、映画館の扉を開けてほしいです。
■放送・配信情報
『生中継!第96回アカデミー賞授賞式』
WOWOWプライム、WOWOWオンデマンドにて、3月11日(月)7:00~生中継(字幕版は21:00~)
WOWOWオンデマンドにて、3月19日(火)23:59までアーカイブ配信
案内役:ジョン・カビラ、宇垣美里
スタジオゲスト:滝田洋二郎、中島健人(Sexy Zone)、町山智浩
レッドカーペットリポーター:小西未来
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/extra/academy/
公式X(旧Twitter):@wowow_movie
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