チェ・ウシク×ソン・ソックの演技を堪能 『殺人者のパラドックス』が問いかける善悪の差

『殺人者のパラドックス』が問いかける善悪

 演出は、『他人は地獄だ』などを手掛けたイ・チャンヒ。スリラージャンルでありながら相反するポップな映像や音楽が流れ、視線が変わる時のカメラワークなどの独特な演出もひとつの見どころ。数々の個性的なキャラクターと演出の調和が秀逸で、一度引き込まれて時間差で不気味さが襲ってくる。また、次々と登場する人物たちが伏線を残していくので一瞬も見逃せず、見終わったあとに答え合わせに見返したくなるおまけ付きだ。

 本作は人気ウェブ漫画『殺人者○ナンガム』が原作で、○に入れる言葉を変えるといろんな解釈ができるという。例えば『殺人者とナムガム』であれば、タンとナムガムの物語になり、邦題の『殺人者のパラドックス』であればタンが主役になる。つまり誰の視点に立つかで物語の解釈が違ってくるわけだ。きっと何度観ても、違った角度から問いかけてくるだろう。

 世の中は白黒がつけられないことにあふれている。誰かの私利私欲のために泣き寝入りしたり日常を奪われたり、生き地獄を味わって苦しんでいる人たちがどれくらいいるだろうか。表に出ていないだけで、そういった人たちがごまんといることは私たちも気づいている。ただ、気づいているだけで当事者になったことはない人が大半であり、結局は想像の範ちゅうでしかない。殺人という行為に正当性を見出し、正義と称えるのは許されないこと。しかし当事者になったら同じように思うのだろうか。善悪をつけられるのだろうか。ダークヒーローがいるおかげで平和な日常を暮らせている人たちがいると思ってしまうのではないだろうか。悶々とした余韻を残すが、『殺人者のパラドックス』から与えられた答えの出ない問いに、何度でも何十回でも考えていかなければならないのだ。

■配信情報
『殺人者のパラドックス』
Netflixにて配信中
出演:チェ・ウシク、ソン・ソック、イ・ヒジュン
原作・制作:イ・チャンヒ、キム・ダミン
©2023 Netflix, Inc.

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