『不適切にもほどがある!』は“一服の清涼剤”か“劇薬”か 令和に漂うモヤモヤをぶった斬る

『不適切~』は日本を元気にする薬になるか

 “一服の清涼剤”か、はたまた“劇薬”か。金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)では、昭和61年から現代にタイムスリップしてきた中学教師“地獄のオガワ”こと市郎(阿部サダヲ)が、コンプラなんぞ知ったこっちゃないと、思うままに令和に漂うモヤモヤをぶった斬っていく。

 「そうそう、そうなんだよ!」とスカッとする反応を示す人もいれば、「その昭和の価値観が危ういから正されてきたんだろ……」と眉をひそめる副反応が出る人もいるだろう。だが、そもそもそんなモヤモヤを1人で抱え込み、口を閉ざすしかないと思っていた人にとっては、吐き出すきっかけにはなるのではないか。少なくとも、働き方改革のシワ寄せを一気に背負うことになったワーキングママの渚(仲里依紗)はその1人だ。そんな渚を救った市郎の言葉、そして渚の心の奥底から出てきた本音に心を鷲掴みにされた人も多かったように思う。

 第1話で登場するやいなや、かなり思いつめた様子だった渚。息子を出産後、職場に復帰したはいいものの、上司も夫も「俺にできることがあったら何でも言ってね」と、一見すると寄り添うような声掛けしたきり、職場の雑用も育児の大変な部分もみんな渚に任せきりの状態。いくつもあるタスクの中から、相手の「できること」を加味して切り分けて頼むことがまず大きな負担になること。そうして切り出してお願いしたときに嫌な顔をされかねない相手であること(上司は面倒なことはごめんマンだし、夫はなんでも論破しようとしてくる正論マン)。

 それでも頼らざるを得ないタイミングで、実際に嫌な顔をされた日には虚しさがドッと押し寄せることは目に見えている。だったら、最初から1人で全部やったほうがマシ!……と、これまでぶちまけられなかった不満が止まらない。そんなときに現れた市郎が「あんたが今してほしいことが、俺にできることだよ」という言葉にハッとさせられた。相手の「できること」ではなく、自分が「今してほしいこと」を頼むだけでいいと言ってくれることが、どれだけ心を軽くするか。そして、優先度を真っ先に上げて取り掛かってくれる姿の頼もしいことか。

 渚が市郎にお願いしたのは、息子のおしり拭きを買ってくることだった。それは、本当に些細なおつかいで、もちろん自分でできないものではない。でも、そのくらい小さなタスクもこなせないほど、切羽つまってしまうことがある。そんなタイミングに、本当の寄り添いを見せてくれた市郎に、渚の気持ちが傾くのも納得だ。

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