『不適切にもほどがある!』は“一服の清涼剤”か“劇薬”か 令和に漂うモヤモヤをぶった斬る
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新人指導も、通常業務も、育児も、すべてワンオペで頑張った渚。そうして、ようやく自分のやりたい企画書を提出しようとするも、“サービス残業をさせている”と上層部から睨まれるのを恐れる上司からは「早く帰って」と目も通してもらえず。さらに、夫からは「僕は君に職場復帰していいと言ったけど面白いものを作れとは言ってない」と一蹴されてしまう。働き方改革が実現したかったことは、誰もがのびのびと働ける環境作りだったはず。だが、いつの間にか手段であるルールを守ることばかりにとらわれてしまい、本来の目的である“働きやすさ”から遠のいているケースも少なくない。ワークライフバランスを実現できるような設備や制度が作られても、実際に使う人からしたら「不便にもほどがある!」と叫ばずにはいられないものもある。
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もちろん、全ての取り組みがすぐにうまく回っていくわけではない。けれど、実施したあとに、活用する人の声がどれだけ聞き入れられて改良されているだろうかというモヤモヤがあるのだ。「そういうものだから」「上で決まったから」とそのまま鵜呑みにする形で仕組みばかりが取り入れ、現場が疲弊していくのを誰も「おかしい」と言えない。それこそ、そんな同調圧力のような空気がありはしないだろうか。
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そんな空気が重苦しく漂っているのは、そこに「正論」があるからというのもある。渚の夫が言った「限られた時間と予算の中で、最大限の努力をしろ」という主張は本当に正しくて、なんの反論もできない。とはいえ、正しいだけでは生きてはいけないのも現実にある。人とは、そんなめんどくさい生き物なのだ。怒られたくないけど、目はかけてほしいという人もいる。たとえ一時的に長時間労働となってでも、納得のいくものを作り出したいという人もいる。そうは言っていたものの、環境や心境の変化に伴って主張を180度変える人もいる。
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だから、一つの「正論」だけが正解じゃない。その一人ひとりの声にどれだけ耳を傾けられるのか。少なくとも、市郎は人の話はちゃんと聞いているのだ。納得できないことだらけの令和の常識も、まずは理解しようとする姿勢がある。それだけの時間を取るし、労力を惜しまない。そのあとの文句も失言も多いけれど、そこがご愛嬌になるのも「聞く」ことから始まる人間らしいコミュニケーションがあればこそだ。
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何を言っても「時代に合ってない」などと言い返してくる正論マンを唯一黙らせたのが、市郎が言い放った上記の台詞だ。景気がよかったというのは、社会全体に活気があったということでもある。無論、そこには多くの我慢もあったことだろう。“もっとこうしたかった”と悔しい思いをした人も多くいたに違いない。しかし、そんな声を一つひとつ拾い集めていった結果が、この令和という時代なのだろうか、という疑問も同時に湧いてくる。
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先人たちはもっと明るくパワフルで、誰もが生きやすい日本の未来を期待していたのではないか。そして、現代を生きる私たちもまた、そんなふうに生きたかったのではないか。少しずつすり減りながら日々をなんとかやり過ごす……そんな2024年を求めていた人などいないはず。頑張りたい人は頑張って、そこそこでいい人はそこそこに。一律ではなくそれぞれが自分らしい働き方を決められる環境整備を。新しい取り組みは当事者の声が反映されるところまでをセットに。いつの間にか誰も口出しができない状況になっている古い慣習にも新たな風を吹かせ、そして何より給料をバンバン上げてほしい。
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そんなSNSなどで日々つぶやかれている本音たちが集約されたようなミュージカルシーンに「いいぞいいぞ!」と頷いた人も少なくなかったのではないか。このドラマが日本を元気にする薬になるか、それとも「不適切」な毒となるか。このドラマが第10話を迎えるころ、社会にどれほどの作用をもたらすのかワクワクしてきた。
■放送情報
金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:阿部サダヲ、仲里依紗、磯村勇斗、河合優実、坂元愛登、三宅弘城、袴田吉彦、中島歩、山本耕史、古田新太、吉田羊
脚本:宮藤官九郎
プロデュース:磯山晶、勝野逸未
演出:金子文紀ほか
主題歌:Creepy Nuts「二度寝」(Sony Music Labels)
編成:河本恭平、松本友香
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/futekisetsunimohodogaaru/
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