“公共の財産”となったミッキーマウス 表現にとっての“二次創作の意義”を考える

表現にとっての“二次創作の意義”を考える

 2024年は著作権に関する大きなニュースが正月から流れた。2023年をもってディズニーのシンボルキャラクターであるミッキーマウス初代版の著作権保護期間が終了し、パブリックドメインとなったのだ。

「セレブレーション!ミッキーマウス」 蒸気船ウィリー

 1928年に公開された短編アニメーション映画『蒸気船ウィリー』で初登場した世界一有名なネズミ、ミッキーマウス。アメリカの著作権保護期間である公開から95年が満了し、2024年からは“公共の財産”となったのだ。

 ただし、これはアメリカ国内の話。著作権法は各国で異なり保護期間に関する決まりも国ごとに違う。日本においては、複雑に事情が入り組んでいて、すでにパブリックドメイン化しているという意見もあれば、まだ当分先という見解もある。また、今回パブリックドメインとなったのは1928年に登場したミッキーマウスのデザインのみであり、現在のミッキーマウスの著作権はまだディズニーに属しているので注意が必要だ。

 昔の作品がパブリックドメインとなっていくのは毎年起きていることであるが、ミッキーマウスのパブリックドメイン化がとりわけ大きなニュースとなるのはなぜなのか。本稿ではその理由と、そもそも、パブリックドメインとは社会にとってどんな使命を帯びたものなのかを通して、表現にとっての二次創作の意義を考えてみたい。

パブリックドメインとは

 パブリックドメインとは、著作権や特許などの知的財産権が適用されない、あるいは消滅した状態のことを指す。パブリックドメイン化した知的創作物は、その権利を行使する特定のだれかがいない状態なので、権利を理由に使用の差し止めなどがなされない状態となる。しかし、人格権や所有権など他の権利を侵害する場合はこの限りではない。

 今回のミッキーマウスは1928年に公開された映画で初登場し、その著作権はディズニー社が所有していたが、発表から95年の著作権保護期間を終了したことで、パブリックドメイン化することとなった。

 なぜ、一定期間を終了した著作物は保護期間をなくさねばならないかというと、あらゆる創作物は過去の作品から影響を受けたもので、完全に独立した表現は存在しない。つまりは過去の創作物の積み重ねの上に成り立っているのだから、一定の期間が過ぎれば多くの人に利用しやすくし、あまねく文化発展のために寄与させるべきだという考えがあるからだ。

 しかし、この保護期間はアメリカをはじめ世界的に度々延長され、権利を保有する会社に都合のよい方向に変えさせられることが多かった。著作権延長法、通称ソニー・ボノ著作権延長法が1998年のアメリカで制定され、1977年以前の法人作品の著作権保護期間を20年延長し1995年に、1978年以降の作品は著作者の死後70年、法人著作の場合は公開から95年か制作から120年間の短い方が適用されるようになった。

 この延長が決められた背後には、ディズニーをはじめとする各社のロビーイングがあったと言われている。そのため「ミッキーマウス保護法」などと揶揄されることもあった。この著作権保護期間は、一貫して延び続けてしまっていた。いったい、いつまでこれは延び続けるのかと危惧された時期もあったのだが、人類史上最大の知的財産とも言えるミッキーマウスがついにパブリックドメインとなったのは、既存の権利者の肥大化する権利を抑制し、公共に開かれたものにして文化の発展を促していくという、本来の著作権の趣旨を取り戻した象徴のような出来事と言える。

 実際に、1998年の延長によって、1920年代の映画の多くがその時点でパブリックドメインにならなかったため、著作者不明で散逸する状態となったとも言われている。それは貴重な文化財産である多くの作品が永遠に失われたに等しく、アメリカのある研究者は75%のサイレント映画が、保護期間の20年延長のせいで失われた可能性を指摘している。(※)

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