“公共の財産”となったミッキーマウス 表現にとっての“二次創作の意義”を考える

表現にとっての“二次創作の意義”を考える

パブリックドメインの恩恵を受けて成長したディズニー

 しかし、パブリックドメインの恩恵と言われても、多くの人はすぐにはピンとこないかもしれない。そんな古いものを参考に新しい表現を作るものなのかと訝しむ人もいるだろう。だが、映画の歴史を紐解けばパブリックドメインの恩恵に預かっている作品・作家は少なくない。

 例えば、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲は基本的にパブリックドメインであるために、自由な解釈やアレンジを施して映画を作ることができるわけだ。いまだに彼の戯曲を用いた映画制作が途切れることなく続いているのは、それだけ優れた戯曲であるだけでなく、パブリックドメインだからできることなのだ。

 パブリックドメインが文化に資するもう一つの好例はディズニーだ。保護期間を延長させて自社の権益の拡大を続けてきた同社だが、『白雪姫』はグリム童話、『ノートルダムの鐘』はヴィクトル・ユーゴー、『眠れる森の美女』はシャルル・ペローの童話で、いずれもパブリックドメインの物語である。その他、『美女と野獣』や『リトル・マーメイド』も『シンデレラ』なども同様で、同社の作品の多くがパブリックドメインの作品をベースにしている。

 こうして振り返ってみると、ディズニーは世界でも屈指のパブリックドメインの恩恵を受けてきた会社と言える。しかも、これらディズニーの名作は、原作とはかなり異なるテイストになっていることもよく知られている。グリム童話は本当はかなり恐ろしい物語だし、『美女と野獣』も原作とかなりテイストが異なる。ディズニーが大幅な改変をしても許されているのは、元ネタがパブリックドメインだからというのも大きいと筆者は思う。

 ある意味、これらの名作ディズニー映画は二次創作であり、これらの作品群で世界的人気を生みだした同社は世界一の二次創作会社と言えるかもしれない。

 ディズニーの存在こそが、自由な二次創作を許容するパブリックドメインの有効性を証明していると言える。そんな先人たちの創作物に助けられた同社が、今度は未来の社会に向けて還元する番がついに訪れたわけだ。

 さっそく、ミッキーマウスが登場するホラー映画が制作されたというニュースもあった(数年前に『くまのプーさん』がパブリックドメインになった時も最初に制作されたのはホラー映画だった。なぜみなホラーにしたがるのだろうか)。今後、ミッキーをもとにした作品は続々と誕生することだろう。ミッキーマウスはキャラクターIP史上最大の存在である。シェイクスピアの例のようにパブリックドメインとなることで利用が促進され、繰り返し生まれ変わることで、むしろキャラクターとしてはこれまで以上に認知度を増していく可能性もあるだろう。あるいは、ミッキーマウスというキャラクターの本当の魅力が発見されるのは、活発に二次創作が生まれる今後なのかもしれない。どんな作品が生まれるのか、筆者は楽しみにしている。

参照
※ https://www.eff.org/deeplinks/2023/01/us-copyright-term-extensions-have-stopped-public-domain-still-faces-threat

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