『劇場版 SPY×FAMILY』がシリーズ化するには? 『クレしん』『コナン』と比較して考察

映画『SPY×FAMILY』は毎年恒例に?

 2023年12月22日に公開されてから、興行成績のランキングトップを走り続けるアニメ映画『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』。遠藤達哉の原作漫画にはないオリジナルの内容でこれだけ楽しませてくれたなら、毎年のようにオリジナルの劇場版が作られて、『クレヨンしんちゃん』や『名探偵コナン』に並ぶアニメ映画の看板シリーズになっていくのではないかという期待も生まれている。

 スパイのロイドが父親、殺し屋のヨルが母親を務め、超能力者のアーニャを娘として養育しながら、予知能力を持った犬のボンドも飼うフォージャー一家の日々を描いていく『SPY×FAMILY』。その初めての劇場版では、一家が巻き込まれるエキサイティングな事態を、激しいアクションもあればほのぼのとした団らんもあり、ぶっ飛んだギャグもある賑やかな展開の中に描いて、原作ファンもアニメファンも喜ばせた。

 ロイドはヨルの正体が殺し屋であることを知らないし、アーニャが心を読める超能力者だとも知らず、ヨルもロイドの本職がスパイであること、アーニャが超能力を持っていることを知らない。アーニャだけがロイドやヨルの仕事を知っていて、ボンドが予知能力を持っていることまで知っている。そうした立ち位置の差から生まれるスリリングなドラマが、『SPY×FAMILY』という作品の持ち味だ。

 家族を演じながらも正体を知られてはいけないという特殊な状況を維持したままでドラマを作ることの大変さ。なおかつ劇場版として原作の展開に大きく関わってくるような内容にもできない困難さ。そうした課題をクリアして、冬のお祭りとして『SPY×FAMILY』ファンを楽しませ、且つ納得もさせる内容を作り上げたことが、本作のヒットの背景にありそうだ。

 つまりは、このセオリーさえ守り続ければ、毎年だって劇場版を作り出せるということになる。そうなれば、『クレヨンしんちゃん』や『名探偵コナン』の劇場版のような楽しみが毎年訪れ、ファンは大喜びだが、果たして『SPY×FAMILY』が『クレしん』『コナン』と並ぶ国民的映画シリーズになる可能性はあるのか?

 ある、というのが目下のベターな答えだろう。理由として真っ先に挙げられるのが「観たい」という観客の要望で、これに応えて新しい物語を作っていこうとしたときに、フォージャー家の関係性というセオリー以外の支障があまりないことも、可能性を高める。これで原作の漫画が急展開を見せて、お互いが正体を明かす事態となったり、アーニャの秘密が広く知られたりしたら、映画だけが特殊なシチュエーションでのホームコメディを演じ続けることは難しい。

 ただ、今のところ原作漫画も、そうしたホームコメディを維持しようとしている印象だ。ロイドはスパイの任務こそこなしているものの、多くはアーニャにスターをとらせることに腐心する良き父親といった顔が強くなっている。ヨルの方も「いばら姫」と呼ばれるほど凄絶な殺しの姿をほとんど見せず、ドジで力持ちの良き母親といった雰囲気を強めている。

 その間にあってアーニャが、家でも学校でも勉強に勤しみ、ダミアンとの関係強化を目指してもなかなか届かずジタバタする日々を描き続けることが、『SPY×FAMILY』というシリーズの魅力となっている。それはつまり、わかば幼稚園に元気に通いながらひまわり組の友達といっしょに大騒動を繰り広げる野原しんのすけを主人公に、父ちゃんのひろしや母ちゃんのみさえ、そして犬のシロといった野原一家も巻き込んでのドタバタ劇が続く『クレヨンしんちゃん』と同じ魅力だ。

 それなら、『クレしん』映画と同じように『SPY×FAMILY』映画も可能だ。ある年は、しんちゃんと友達をメインに描いた『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』のように、アーニャと「じなん」ことダミアン・デズモンド、そしてベッキー・ブラックベルといったイーデン校の生徒たちが大冒険をする映画が作られ、ある年は、野原一家がタイムスリップする『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』のように、フォージャー一家が見舞われる危機を通して家族の絆を確かめ合う映画が登場する。

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