『劇場版 SPY×FAMILY』がシリーズ化するには? 『クレしん』『コナン』と比較して考察
気になるところがあるとしたら、『クレしん』のしんちゃんがタイトルロールとして作品を代表しているように、アーニャを『SPY×FAMILY』と見なすことで成立する展開だということ。実際にストーリーが進むに連れて、アーニャを軸にしてロイドが戦いヨルも献身的な姿を見せる構図が強まってきている。その方が、アーニャのファンになりやすい子どもたちを作品に引きつけられるからだ。
ただ、ロイドが戦争のない世の中にしたいという願いから、スパイになって危険な任務をこなし続けているという心意気は蔑ろにはできない。ヨルの弟を思い、今はロイドやアーニャを思いながら戦う気持ちもサブテーマに貶めたくない。ロイドのカッコよさに憧れるファンや、ヨルの豹変ぶりに惹かれるファンも納得できる展開にするなら、アーニャだけにメインを張り続けさせる訳にはいかない。
もっとも、『クレしん』映画もしんちゃんだけが主役を張り続けている訳ではない。ひろしがメインとなった『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』や、ひろしとみさえを中心に描いた『クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』といった映画も作られている。こうしたバランス感覚を『SPY×FAMILY』にも持ち込んで、一家の全員が引き立つようなドラマを作り続ければ、『SPY×FAMILY』の映画も30年以上続く『クレしん』映画に並ぶ看板シリーズになれるだろう。制作しているWIT STUDIOとCloverWorksの制作力がそこまでもつかといった課題はあるが。
『劇場版 SPY×FAMILY』をシリーズ化する方法としては、『名探偵コナン』の映画シリーズのような取り組み方もある。江戸川コナンが事件を解決するという軸こそあるものの、作品によっては『名探偵コナン ゼロの執行人』のように安室透がメインキャラクターとして活躍したり、『名探偵コナン 緋色の弾丸』のように「赤井一家」が中心となっていたりする。4月12日公開の最新作『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』も、ストーリーの軸は怪盗キッドと服部平次の関係になっていそうだ。
この方式を使えば、ロイドと強敵との対決を軸にして、そこにアーニャやヨルが絡むような映画も作れそうだし、ヨルが過去にないピンチに巻き込まれるような映画も作れそう。“夜帷”ことフィオナ・フロストがロイドへの恋心をたぎらせながら暴れ回る映画も作れそうだが、観たいファンが狭い範囲に限られることだけは確か。オマケの短編で実現してくれればファンとしては十分だろう。
ただ、『名探偵コナン』の映画シリーズが多彩なドラマを描けるのも、本編が長期連載の中で展開が大きく動くようには見えない上に、映画シリーズが江戸川コナンと黒ずくめの組織との対決というメインストーリーを大きく動かさないよう配慮されているから。『SPY×FAMILY』の場合も、本編が長期連載を想定してアーニャをメインにしたフォージャー一家のドタバタ劇を続けるスタンスを取ることが、『クレしん』や『名探偵コナン』の映画シリーズに並ぶ映画興行の柱に『SPY×FAMILY』が並ぶ上で、大切なことだと言えそうだ。
■公開情報
『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』
全国公開中
原作・監修・キャラクター原案:遠藤達哉(集英社『少年ジャンプ+』連載)
出演:江口拓也、種﨑敦美、早見沙織、松田健一郎ほか
監督:片桐崇
脚本:大河内一楼
キャラクターデザイン:嶋田和晃
サブキャラクターデザイン:石田可奈
総作画監督:浅野恭司
音楽プロデュース:(K)NoW_NAME
音響監督:はたしょう二
アニメーションアドバイザー:古橋一浩
制作:WIT STUDIO×CloverWorks
配給:東宝
製作:「劇場版 SPY×FAMILY」製作委員会
©2023「劇場版 SPY×FAMILY」製作委員会 ©遠藤達哉/集英社