『薬屋のひとりごと』壬氏×猫猫の“曖昧さ”がたまらない “溺愛もの”は一大トレンドに

『薬屋のひとりごと』など“溺愛もの”の魅力

 アニメ『薬屋のひとりごと』の第12話は、タイトル「宦官と妓女」が示す通り、壬氏と猫猫の間の絶妙な距離感が視聴者の心を捉える素晴らしいエピソードとなった。これまでの放送では、猫猫がその卓越した薬屋としてのスキルを駆使して事件を解決するサスペンス要素が強調されていたが、今回のエピソードは一味違う。終盤の壬氏と猫猫のまだ曖昧で、もどかしい感情の交錯は、1クールの最終回にふさわしいクライマックスを飾った。

『薬屋のひとりごと』第12話「宦官と妓女」予告【毎週土曜24:55~ 日本テレビ系にて全国放送中!】

 『薬屋のひとりごと』は、時に陰湿な女性たちの争いや嫌がらせが繰り広げられる「後宮もの」の要素を含んでいながらも、その枠を超えて独自の形で物語を展開してきた。その根底で光っているのは、なろう系小説を原作とするアニメならではのテンポの良い構成と、ヒロインがヒーローに深く愛されるという「溺愛もの」としての側面だ。端的にいえば、壬氏と猫猫の関係性がとにかく“推せる”のである。

 『薬屋のひとりごと』では、後宮で強大な権力を持つ宦官の壬氏が、猫猫に対して特別な感情を抱いていることが描かれている。その美しい容姿で宮中の女性から想いを向けられている壬氏だが、彼は猫猫以外の女性にはさほど興味を示さない。一方で猫猫も、後宮ではよくある“帝の取り合い”のドロドロとした愛憎劇とはほど遠く、宮中の男性に興味がない。むしろ面倒ごとに巻き込まれないよう、彼らとの距離を保ちたがっているほど。

 とはいえ、猫猫自身も壬氏に対してはほんの少しずつ心を開き始めている節もあり、この付かず離れずの距離が視聴者にはたまらない。この主人公が高位の人物に愛される「溺愛もの」としての展開は、近年のアニメで注目を集めているトレンドでもある。

 もちろん作品ごとに個性はあれど「不遇な状況にあるヒロインが高位の人物に愛される」のが典型的な展開だ。このジャンルの王道作品ともいえる『私の幸せな結婚』では、継母と異母妹に虐げられて育った美世が、名家・久堂家の当主である清霞と政略結婚することになり、彼との関係を通じて成長していく。清霞の真っ直ぐな優しさによって美世が愛を知っていくあたたかいストーリーは、アニメ・実写ともに話題となった。

アニメ「わたしの幸せな結婚」PV第3弾《清霞篇》

 また、西洋風の世界観を持つ『魔法使いの嫁』では、15歳の少女チセがオークションで魔法使いエリアスに買われ、彼に寵愛されるというストーリーが展開される。これらの作品は、ヒロインが高位の人物に愛されるという共通のテーマを持ちつつ、『薬屋のひとりごと』とも重なるような、登場人物たちのもどかしい恋愛模様が視聴者の心を掴む。

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