アニメ『わたしの幸せな結婚』は影の演出に注目 キネマシトラスの“スペシャル”な作品に

『わたしの幸せな結婚』要注目の影の演出

 意地悪な継母と、その連れ子によって激しい虐めに遭い、汚れた服を着て召使いのように働かされる薄幸のヒロインが、若き王子に見初められて幸福を掴む。ーーこれはフランスの有名な童話『シンデレラ』のあらすじだが、明治~大正時期の日本を舞台にこんな話が繰り広げられているのが、現在放送中のTVアニメ『わたしの幸せな結婚』だ。顎木あくみによる原作小説は、7月発売の最新第7巻が紀伊国屋書店全店の文庫ランキングで2週連続1位に輝くほどの人気ぶりである 。(※)

 『わたしの幸せな結婚』は単純なシンデレラ・ストーリーには終わらず、「異能」と呼ばれる一種の超能力を持つ家系を巡る謀略が絡み、2人の主人公・斎森美世と久堂清霞を襲う様々な試練、互いを思い遣る2人の日常など物語の緩急が付いている。既に実写映画化も果たしているが、TVアニメになったことで、アニメファンを含めてより多くの人の目に留まることとなった。今や日本国内のみならず、海外の日本アニメ愛好家の間でも熱い注目を浴びている。この繊細な人間模様と、美しい美術が編み出す作品を作り上げているアニメスタジオが、キネマシトラスである。アニメの制作会社にさほど関心を持たないで観ている人にはピンと来ないかも知れないが、独特の世界観でファンを魅了している『メイドインアビス』(2017~2022年)を制作している会社だと説明すれば、その実力の程が伝わるかも知れない。

アニメ「わたしの幸せな結婚」 ノンクレジットオープニング|りりあ。「貴方の側に。」

 キャラクターデザインを手がける安田祥子を始め、美術監督の片野坂恵美、色彩設計の岡松杏奈、着物デザインのHALKAなど、作品を形作る重職に女性スタッフが多く参加しているのも本作の特徴だ。毎週のサブタイトルが表示される画面の四隅に花を配置している映像も印象的だが、第1話サブタイトル画面で蕾になっている花の部分が、第2話では開花している。第1話ラストシーンで清霞に出会った美世の人生が変わり始めることを匂わせるようだ。美世が自分の胸の内を打ち明け、それに応えて清霞が彼女を抱きしめる第4話のサブタイトル「おくりもの」を囲むのはスズラン。スズランには「幸福の再来」「純粋」「希望」という花言葉があり、美世を受け入れる清霞の優しさと、ようやく自分の居場所を見つける美世に寄り添った花で彩られている。美世の異母妹・香耶が、美世を監禁して縁談を断るよう脅迫する恐ろしい第6話は、香耶をイメージした美しさと棘を併せ持つ薔薇がサブタイトルを囲んでいる。こうした秀逸なサブタイトルの装飾も、着物デザイナーと兼任でHALKAが担当して、これから始まる作品世界へと誘ってくれている。

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