『幽☆遊☆白書』の成功は必然だった? Netflixが切り拓いた日本製作実写作品の可能性

Netflixに聞く国内実写作品の可能性

 12月14日に世界配信がスタートしたNetflixシリーズ『幽☆遊☆白書』の勢いが止まらない。配信開始以来、日本国内の「今日のテレビ番組TOP10」で1位を独走しているだけにとどまらず、非英語番組のグローバルTOP10で初登場1位を獲得、英語を含めた全言語番組のTOP10でも全世界2位を獲得、Netflixの契約者数が最も多い北米においてもクリスマスシーズンのトップ3の一角を占めるという快挙を成し遂げている。

 2023年、映画では『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(ユニバーサル・ピクチャーズ)、テレビシリーズでは『ONE PIECE』(Netflix)と、海外製作による日本のIP映像化作品のグローバルヒットが相次いだ。さらに、国内製作の『すずめの戸締まり』(東宝)、『THE FIRST SLAM DUNK』(東映)、『ゴジラ-1.0』(東宝)、『君たちはどう生きるか』(東宝)が続々と世界各国でヒットを記録。とりわけ『ゴジラ-1.0』の北米でのスマッシュヒットは、今やすっかり日本のお家芸から世界共通言語となったアニメーション作品だけでなく、実写映画にも大きな可能性があることを証明する出来事だった。

 そんな年の瀬、「国内製作の実写テレビシリーズのグローバルヒット」を成し遂げて、「日本発IP大躍進の年」の欠けていた最後のピースを埋めたのが今回の『幽☆遊☆白書』となったわけだ。Netflixは「国内製作の実写テレビシリーズ」の分野で、2015年のローンチ当初からトライ&エラーを繰り返してきたが、その突破口となったのが2020年12月に配信された『今際の国のアリス』だった。2022年12月にシーズン2が配信されると、非英語番組のグローバルTOP10で2週連続1位を獲得、世界90か国でTOP10入りを果たすこととなった。

 その『今際の国のアリス』のエグゼクティブ・プロデューサーを務め、今回の『幽☆遊☆白書』でも同じくエグゼクティブ・プロデューサーを務めている坂本和隆氏が、現在の日本の映像界における最重要キーマンの一人であることは間違いないだろう。既に『幽☆遊☆白書』を観た人ならば誰もが度肝を抜かれたであろうVFXパートの制作がおこなわれたロサンゼルスのScanline VFXスタジオでの取材を経て、今回、Netflixの東京オフィスでじっくり話を訊くことができた。

重視しているのは「とにかく会話を重ねていくこと」

Netflix Japan 坂本和隆氏

ーー現在、映像界では世界的に日本のIPに注目が集まってますが、グローバルマーケットで勝てる日本のIPと勝てない日本のIPの違いを、坂本さんはどのように捉えてますか?

坂本和隆(以下、坂本):グローバルマーケットの捉え方については、作品ごとに全部変えてます。ただ、一つだけ共通している考え方があって、どの作品もローカルファーストであるということ。一番避けなくてはいけないのは、どこの国の味かわからないミックススープ的な作品になってしまうことです。「これ、どこ向けの作品だったの?」というのが作品にとって一番不幸なことなので、まずは日本のオーディエンスに楽しんでもらうことを考える。その次にくるのがアジア。日本の作品にとってアジアはすごく重要なマーケットで、それは、きっと韓国の作品にとっても同じだと思います。実感として、映像作品にとってそのアジアの壁を超えるのはなかなか難しくて、それを超えたところにラテンアメリカやヨーロッパのマーケットがある。僕の感覚では、一番奥のところにあるのが北米のマーケットです。

ーーああ、それはすごくリアルな話ですね。

坂本:Netflixで作品を作り続けているうちに、そういう地球儀ベースでのヒットの分布図というのが見えるようになってきました。我々は作品を配信する際、世界同時配信と謳いますけど、必ずしも全世界から同時に反響がくるとは限らない。その上で、『幽☆遊☆白書』はアニメーション作品の時点でアジアやヨーロッパにはファンベースがあるのが事前にわかっていたので、それが制作にかけられる時間や費用にも関わってくるわけです。『今際の国のアリス』の時も、アジア、ヨーロッパまでは見えてました。Netflixの作品の場合、そういう考え方が大切になってきます。

ーー「北米が一番奥のところにある」というのは、言われてみれば本当にその通りで。

坂本:グローバルヒットというと北米でのヒットをイメージする人も多いと思うんですけど、北米を意識しすぎると、それこそミックススープ的な作品になってしまいがちなんです。

ーー先ほどおっしゃってた「ローカルファースト」というのは、近年Netflixの方と話をしている時によく耳にする言葉なんですけど、それはNetflixが日本で掲げているスローガンなのでしょうか? それとも、どこの地域のNetflixにも共通する考え方なのでしょうか?

坂本:どこの地域でも、まずはローカルのマーケットに照準を合わせているという点では足並みは揃っていると思います。

ーー他の大手配信プラットフォームとNetflixの大きな違いの一つは、長年にわたってローカルプロダクションに力を入れてきたことですよね。それによって、長らく北米に偏重してきた映像界全体の景色は大きく変わってきたし、そこはいくら強調してもしすぎることはないNetflixの大きな功績だと思うんですけど。

坂本:そうですね。だからこそ、ここまでは簡単な道のりではありませんでした。各地域、同じようなスタートラインに立っていたわけですけど、昨年末の『今際の国のアリス』シーズン2や『First Love 初恋』、今年の『サンクチュアリ -聖域-』と、ここにきてようやく作品を連続して仕掛けられるようになってきた。社内の他のプロデューサーも、ここ3年くらいの間に入ってきてくれた方は多いんですけど、それまでは本当に少ない人数でやってきたので、日本で作れる本数も限られていて。外資ということもあって、一本一本が試されてきたというか、一つの作品を作るのに少なくとも2、3年はかかるので、ちゃんとそこで結果を出さないとなかなか伸ばしていけないというところはありました。

ーー例えば、今回『幽☆遊☆白書』の実写化を実現するにあたって、この地域ではこのくらいの知名度があるから勝算があるだろうとか、そういうリサーチをどの程度するんですか?

坂本:そうしたマーケティング的なことで企画を動かすということはないです。コミックの翻訳本がどの国で出ているかとか、そのくらいのことは把握はしてますけど、キャラクターや物語の魅力といった内容面がすべてですね。

ーー正直、国内の視聴者からの信頼という意味では、特に日本のコミック作品の映像化においては、実写よりもアニメーションの方が実績では優位にあると思うんですね。それでも実写化に踏み切るにあたって、『幽☆遊☆白書』では何が鍵となったのでしょうか?

坂本:『幽☆遊☆白書』の場合、あの世界観、そしてキャラクター、例えば戸愚呂兄弟の肉体性というのを、誰が演じて、どのように見せることができるのかということが起点になりました。そこで勝算が見えない限り、触れちゃいけないIPだと思うので。作品のデベロップメントの段階で、そこで自分たちが求めるクオリティのものが本当に作れるかどうかに関して徹底的に検証しました。特に技術的な面において。

ーーある意味、そこに目を瞑ってでもやれちゃうというのが、日本におけるコミック作品の実写化だったわけじゃないですか。でも、Netflixはそうは考えない、と。

坂本:確かに、やれちゃうかどうかという点では、それでもやれちゃうという考え方もあるわけですが、自分たちが求めるクオリティのレベルに達しないならば「やる意味はどこにあるのか?」ってことだと思うんですね。だから、まず作品を実写化する上でのビジョンがあって、それを実行するかどうかというのは、原作の特性とその製作規模がマッチするかどうかというところで判断してます。

ーー原作で描かれている世界と作品の予算規模が合ってないというケースが、日本の作品では多かったですよね。

坂本:はい。そういう場合、本来はその原作に触っちゃいけない、ということなんだと思います。

ーーあと、コミックの実写化の場合、実際に作品に触れる前の段階で、原作のファンが一番敏感になるのはキャスティングだと思うんですね。『幽☆遊☆白書』では、それも見事にハマっていて。的確なキャスティングをする上で、重要なポイントはどこにあるとお考えですか?

坂本:コミック原作に限らず、少なくとも自分が企画から入っている作品に関しては、コミュニケーションの距離をめちゃくちゃ大切にしてます。『全裸監督』、『今際の国のアリス』、『First Love 初恋』、『サンクチュアリ -聖域-』と、そこに関しては例外はなかったですね。もしかしたらこれまでの日本のスタジオの作品って、製作の責任者と、監督をはじめとするクリエイターの方々、スタッフ、そしてキャストの方々との距離が遠かったんじゃないかと思うんですよ。そこでとにかく近い距離で徹底的に話をしていく、そのための時間を確保するという。基本的なことかもしれませんが、作品にとってプリプロダクションの期間って本当に大切だと思っていて。まずスクリプトがあって、そこからプロデューサーや監督と徹底的に意見を交わしていて。

ーーなるほど。確かに、企画が立ち上がるのと同時にキャスティングを決めるのとは全然違いますよね。

坂本:スクリプトをベースに、キャラクターを生きた存在としてスタッフと共有した上で、そこからキャスティングを進めているので。そこをキャスティング先行で、まずキャストを確保してってやっていったら、そこからはパズルを組み合わせていくような作業になってしまうと思うんです。

ーーつまり、世界的には当たり前とされていることを、ちゃんとやってるってことですよね。

坂本:そうです。そこで自分はとにかく会話を重ねていくことを重視していて、『幽☆遊☆白書』の月川(翔)監督も、話していてとてもロジカルな方なんですよ。今回、かなり大々的にVFXを導入した作品になったわけですが、そうするとどうしても作業が複雑なプロセスになっていくんですね。そこで、とてもロジカルに、ちゃんと丁寧に全体をオーガナイズしていくスキルがとても高い方なので、とてもありがたかったです。

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