『幽☆遊☆白書』の成功は必然だった? Netflixが切り拓いた日本製作実写作品の可能性

Netflixに聞く国内実写作品の可能性

『幽☆遊☆白書』原作者の冨樫義博からゴーサインが出た理由

ーー先日、ロサンゼルスにあるScanline VFXスタジオの取材をして、そこでメイキングの映像も見させていただいたんですけど、月川監督はVFXのパートでも全体をとても細かく演出をされていて、「なるほど、ここまでやってるからあのクオリティが実現したんだな」と感心しました。

坂本:月川監督にとってここまでVFXを導入した作品は初めてで、準備段階も含めて本当に大変だったはずですが、実はすごく向いてる方なんじゃないかと思いました。

ーーこれは常々思っていることなんですけど、海外のテレビシリーズではショーランナーが作品を統括する立場として存在しているじゃないですか。でも、あのシステムって、現状、日本ではなかなか導入されないですよね。それは何が理由なんですか?

坂本:おっしゃる通り、特に北米におけるショーランナーって、予算まですべて理解して、シリーズ全体の設計をしているわけですけど、日本の場合、そこはプロデューサーや監督によるチーム全体で担うことになってますね。ゆくゆくは、日本でもショーランナーという存在が出てくることになるかもしれませんが。いずれにせよ、Netflixのようにグローバルで作品を出していく場合、ある作品を作りたいと旗を上げた人間が、相当細かいところまでビジョンを提示して、実際に自分で動いていく必要があると思います。それこそ、キャラクターの行動原理一つをとっても、国や地域や宗教によって何かに抵触するようなケースもあるじゃないですか。日本の場合、そこは制作チームと連携をとって、作品の方向性をナビゲートしているというのが現状ではあります。

ーー『幽☆遊☆白書』もかなりぶっ飛んだ設定の作品ですが、海外では日本独自の死生観として見られることになるんでしょうか?

坂本:いや、そこはどこの国の人が見ても違和感しかないんじゃないですか(笑)。いつもおしゃぶりをしてるキャラクターがいたりするわけですから。

ーーそれはそうですね(笑)。

坂本:でも、そういう違和感は、作品にとってとても重要だと思うんですよ。何かの引っかかりがあることで、作品の続きを観てもらえることになると思うので。

ーー2023年のNetflixにおける日本のIP実写化作品を振り返った時、まず8月に本国のNetflixが主体となって製作された『ONE PIECE』が大成功を収め、年末には日本のNetflixが主体となって製作された『幽☆遊☆白書』が配信されたわけですが、いずれの作品も本国側と日本側の連携が不可欠だったと思うんですね。『ONE PIECE』における日本側の貢献、『幽☆遊☆白書』における本国側の貢献について、それぞれ具体的に教えていただけないでしょうか。

坂本:『ONE PIECE』は北米のNetflix本社が基軸となってスタートした企画で、そこから5年くらいの道のりがありました。先ほども言ったように、まずスクリプトがあって、そのデベロップメントのプロセスにおいて原作者や出版社と会話を重ねていくわけですけど、そこでは我々も連携をとって動きました。原作のコミックが持つ、日本のカルチャーとしてのコンテクストが重要なのはもちろんですけど、やはりそこで尾田(栄一郎)先生が気にしていたのは、キャラクターの行動原理で。その行動原理を作り手側がどれだけ深く理解しているかというのが、IP作品においては一番大切な部分だと思っていて。そこに関しては、北米製作の『ONE PIECE』でも日本製作の『幽☆遊☆白書』でも変わらない部分ですね。

Scanline VFXでの取材にオンラインで参加したVFXスーパーバイザーの坂口亮氏(写真左)

ーー『幽☆遊☆白書』における本国側の貢献というと?

坂本:製作の過程においては、本国はほぼ関わってなくて。ただ、今回はNetflixが傘下にScanline VFXを持っていたというのは大きかったです。『幽☆遊☆白書』を実写化する上で必要とする技術がもし国内に全部あれば日本で完結することもできたわけですけど、ロサンゼルスにScanline VFXがあって、そこに今回VFXスーパーバイザーを務めてくれた坂口亮さんがいて。そうした本国との連携や人との巡り合いによって、当初掲げていたビジョンをちゃんと実現できたのはとても幸運でした。基本、我々がやっていることはすべて作品ベースで、そこでベストなアプローチを作品ごとに模索していくわけですけど、そのアプローチの選択肢がたくさんあるというのはNetflixの強みだと思います。

ーーコミックの実写化というのは、当然のように原作者との信頼関係が大切になってくるわけですど、今回、原作者の冨樫義博さんからゴーサインが出た最大の理由は何だったんでしょう?

坂本:最大の理由かどうかはわかりませんが、大前提として『幽☆遊☆白書』は素晴らしい名作なので、それに相応しいクオリティを担保できるかどうかというのが一番の命題で、最初の会話もまずはそこから始まりました。ただ、そこで「こういうふうにやろうと思ってるんです」っていくら自分が口でプレゼンしても、それはただのプレゼンでしかないじゃないですか。だから、そこから10ヶ月くらいかけて作品の世界観を構築した具体的なビジュアルを作ったものを提示して、それをどういうトーンで映像にしていくかということも全部言語化して、冨樫先生や出版社と共有させていただきました。それは、実写化の許可をいただくためだけではなくて、これから作品を作ろうとしている自分たちにとっても絶対に必要となってくる資料なんです。逆に、そこまで入念に丁寧に準備をしないと、『幽☆遊☆白書』のような思い入れのあるファンがたくさんいる四半世紀前の名作には、怖くて手が出せないです。その過程で、もし自分たちが納得できないところがあったら、それはやらない方がいいってことだと思うので。

 インタビュー中、坂本氏は「北米が一番奥のところにある」と語っていたが、結果的に『幽☆遊☆白書』は配信された直後からその「一番奥のところ」にまでしっかりと届くこととなった。それは、日本発IP作品に追い風が吹いている2023年を象徴する出来事とも言えるわけだが、もちろんそれだけではない。日本における配信プラットフォームのパイオニアとして、Netflixが日本で2015年から積み上げてきた経験の蓄積、世界各国で築き上げてきた信頼、そしてScanline VFXに代表される本国サイドからのバックアップを得て、『幽☆遊☆白書』は必然的に大きな成功を収めたのだ。

 Netflixに限らず、昨今の映像界全体を取り巻く状況の変化を受けて、きっと水面化では現在多くの日本発IPのデベロップメントが進行していることだろう。しかし、ほんの数年前まで、「日本製作の実写エンターテインメント作品が世界で当たるわけがない」ということがまるで常識のように語られていた。そんな逆風の中にあっても作品の製作を続けてきて、ここにきてさらに体制を強化しつつあるNetflixの優位性は、当面揺らぐことはないだろう。

■配信情報
Netflixシリーズ『幽☆遊☆白書』
Netflixにて配信中
出演:北村匠海、志尊淳、本郷奏多、上杉柊平、白石聖、古川琴音、見上愛、清水尋也、町田啓太、梶芽衣子、滝藤賢一、稲垣吾郎、綾野剛
原作:冨樫義博『幽☆遊☆白書』(ジャンプ・コミックス刊)
監督:月川翔
脚本:三嶋龍朗
VFXスーパーバイザー:坂口亮(Scanline VFX)
エグゼクティブ・プロデューサー:坂本和隆
プロデューサー:森井輝
制作プロダクション:ROBOT
企画・製作:Netflix

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