小田慶子の「2023年 年間ベストドラマTOP10」 ドラマの解像度が上がらなかった2023年

小田慶子の「2023年ベスト国内ドラマ」

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2023年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、2023年に放送・配信された作品の中から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクト。第17回の選者は、ライター/編集者の小田慶子。(編集部)

1. 『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)
2. 『コタツがない家』(日本テレビ系)
3. 『連続ドラマW フェンス』(WOWOW)
4  『大奥』(NHK総合)
5. 『離婚しようよ』(Netflix)
6. 『セクシー田中さん』(日本テレビ系)
7. 『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)
8. 『100万回 言えばよかった』(TBS系)
9. 『東京貧困女子。-貧困なんて他人事だと思ってた-』(WOWOW)
10. 『VIVANT』(TBS系)

 わが家は46型のプラズマテレビを使って13年。そろそろ4Kテレビ(65型以上)に買い替えだと思い立って家電量販店に行くと、なぜか地上派番組の画質が粗い。「地上波は2Kですからね」と店員さんがあっさり。結局、私の愛する地上波ドラマなら現状のテレビが一番きれいに観られるのだ。嗚呼、4Kになれない。なかなかテレビの解像度を上げられない。

 2023年の連続ドラマもそんな印象だった。娯楽性があって楽しめた作品は多かったけれど、2022年の『エルピスー希望、あるいは災いー』(カンテレ・フジテレビ系)、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』のように現実や史実を解像度高く読み解き、フィクションに転換したものが少なかったのが残念。そんな中、今年も全5話以上の連続ドラマから10本を選ばせてもらった。

1.『ブラッシュアップライフ』

 脚本のバカリズムは、宮藤官九郎と同じく「時間を巻き戻さずにはいられない」人だが、そのタイムリープ癖(へき)をとことん突き詰めて生み出した傑作。うっかり死にがちな主人公(安藤サクラ)が「クッ、何度人生をやり直しても、地元の友達が事故死してしまう!」という状況を打破しようとする。そんなコントみたいな物語を最上級の会話劇と演出と芝居で展開し、私たちの平凡な人生は素晴らしいと思わせてくれた。みんなキャラ立ちしていたが、カラオケボックスの受付にいる染谷将太でしか摂取できない栄養素があった。本作はザテレビジョン・ドラマアカデミー賞を5部門受賞し、取材させてもらったが、とにかく自由度の高いチームでバカリズムが「珍しくなんの制限もなかった」と語っていたのが印象的だった。そうだ、ドラマの現場に創造の自由を!

2.『コタツがない家』

 “私でしかない”主人公が出てくる、「こんなドラマ初めて~!」と叫んだ共感度200%の作品。万里江(小池栄子)が息子(作間龍斗)に「頼むから指定校推薦で大学に行ってくれ」と懇願するシーンに本気で泣いた。その息子が推薦の面接で「親の敷いたレールを歩いていたらここにいただけ」とイキって怒りに震えた。うちの息子もやりかねない。夫の稼ぎは当てにならないし、老いた父は暴走するばかり。これは、私たち、家計と家族のケアをダブルで担う女性の物語だ。小池が言った夫のグチを脚本の金子茂樹が反映しただけあり、令和版『肝っ玉かあさん』としてリアルだった。向田邦子のような作劇術にも拍手。

3.『連続ドラマW フェンス』

 本作でデビューした宮本エリアナの演技が不器用すぎてドキドキ。それが沖縄で起こる性暴力を描く本作ではかえってリアルに感じられた。脚本の野木亜紀子らの思いが詰まった物語は、オピニオンが前に出すぎているところもあったが、ヨーロッパと中東で悲惨な戦闘が起こり、私たちはアメリカの核の傘の下にいるから平和に過ごせているんだと実感せざるをえない今、その平和の代わりに差し出されたものを描き、本質を鋭く突いていた。

4.『大奥』

 実写化は気合だ! 私は原作ガチ勢だが、誰がこの壮大な男女逆転版『大奥』を結末まで映像化できると思っただろうか。それを「やる」と決意した制作陣は、『風の谷のナウシカ』を完全歌舞伎化した尾上菊之助に並ぶ暴挙&快挙だ。配役も天才。感慨深かったのは、福士蒼汰の脱皮。取材中に「役者になるべくして生まれてきた人を相手にすると、僕はどうしたらいいんだろうなって……」と人生相談されたこともあったけれど、いまや君こそ本物の役者だ。鈴木杏や仲間由紀恵の快演にも圧倒された。

5.『離婚しようよ』

 まさかクドカン(宮藤官九郎)と大石静が組む日が来るとは……と驚きつつイッキ見。仲里依紗演じるヒロインの不倫相手(錦戸亮)が不能で、「そうか、クドカンがこだわってきた『童貞』という設定は50歳を過ぎて『不能』になったんだ!」と激しく納得。『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)では童貞役の松坂桃李が二の腕フェチの浮気男という振り幅も面白かった。ただ、Netflix配信作であるものの、制作したTBSとの違いは感じられず、完全にTBSドラマとして楽しんでしまった。

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