田幸和歌子の「2023年 年間ベストドラマTOP10」 秀逸な脚本と若い才能に感じた希望

田幸和歌子の「2023年 年間ベストドラマ」

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2023年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第9回の選者はテレビドラマに詳しいライターの田幸和歌子。(編集部)

1. 『らんまん』(NHK総合)
1. 『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)
3. 『リバーサルオーケストラ』(日本テレビ系)
4. 『離婚しようよ』(Netflix)
5. 『大奥 season2』(NHK総合)
6. 『わたしの一番最悪なともだち』(NHK総合)
7. 『彼女たちの犯罪』(読売テレビ・日本テレビ系)
8. 『往生際の意味を知れ!』(MBS)
9. 『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(NHK BS)
10. 『日曜の夜ぐらいは...』 (ABCテレビ・テレビ朝日系)

 配信の浸透と地上波連ドラ枠の増加により、作品数が増えて粗製乱造になるどころか、作品の質の向上やチャレンジングな作品の増加が見られた嬉しい悲鳴の2023年。刑事モノ、医療モノだらけの1話完結ドラマの乱発に辟易し、配信でアニメばかり観ていた数年前が、もはやはるか昔のことに思えるほどだ。

 そうしたドラマの質の向上を支えるのが、なんといっても脚本の質の高さ。中でも特筆すべきは、第1話から最終回まで全く無駄なく、全ての登場人物に愛情が注がれ、なおかつ毎週のサブタイトルとなる植物と人間の営みを結び付けるという、眩暈のするほど難度の高い構成で見事に描き切った『らんまん』だ。

 朝ドラの長い歴史の中で名作と呼ばれる作品は数あれど、15分×週5本(かつては6本)×半年間という物理量を一瞬の中弛みも尻すぼみもなくこなした作品と言うと、正直、片手で数えられる程度。それだけでも十分すぎる功績なのに、なおかつある意味変化のない天才主人公を「広場」として真ん中に置き、そこに集まる人々がそれぞれの花を咲かせる変化の過程を丹念に描いた。しかも、毎週1つずつの植物すべてが揃うと、最終的に本作の主人公である植物学者が愛し、次世代に渡していった植物図鑑となるという仕掛けまで施されていたことには、舌を巻くばかり。

『らんまん』を傑作にした制作陣全員の信頼感 神木隆之介×長田育恵は最高の化学反応に

植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにし、長田育恵作・神木隆之介主演で描くNHK連続テレビ小説『らんまん』が間もなく最終回を迎える…

 しかし、『らんまん』が優れていたのは、脚本家・長田育恵の圧倒的な筆力に敬意を抱き、良質な脚本を最良の形で映像にするべく、脚本家の思いを大事にしたプロデューサーや演出家、役者陣のチーム力による部分もある。なぜなら、他の多くの作品にもあるだろうが、特に朝ドラというコンテンツには様々な付き合いや権利・事情・綱の引き合いが絡み、脚本家の思惑が最優先されないケースが非常に多く、そこで潰されてしまう脚本家もたくさんいるからだ。

 そうした意味で、同じく1位に挙げた『ブラッシュアップライフ』もまた、バカリズムの脚本にプロデューサー・演出家・役者陣が全幅の信頼を寄せ、その世界観を全力で楽しんだ結果生まれた名作だったと言えるだろう。

 小田玲奈プロデューサーは当初、会社で企画を通すために「女の人生はいろいろ、結婚する人生があったり、子供を持つ人生があったり、恋に溺れる人生があったり、そんな人生を何度もやり直すみたいな企画」という全く違った内容の企画書を書いていた。しかし、設定だけ作って脚本を進める中で「バカリズムさんの中で『人生をやり直すとき、意外と前の人生を気に入っていた人は、同じような人生を繰り返すんじゃないか』という話になり、『平凡だと思っていた日常が一番愛しい』というテーマに最終的に行き着いたんです」と語っている。(※)

イ・ミナ×小田玲奈が考える、名作ドラマを生み出す秘訣とは? 日韓の“違い”と“共通点”

Hulu初のオリジナル韓国ドラマ『プレイ・プリ』は、世界的ヒットを記録した『梨泰院クラス』と『愛の不時着』それぞれのプロデューサ…

 「タイムリープ」というSF要素の強い非日常的設定と、バカリズムらしい日常の小さな積み重ねから思いがけない展開につながり、最終的に「テーマ」が見えてくるーー理想的でありつつも、マーケティングやセオリーからは決して生まれない、ある種の博打にも思える作り方だ。それを可能にしたのは、プロデューサーの脚本家への絶大な信頼と、それを実現するための「執念」「根回し力」でもあるだろう。

 そこから思い出されるのは、昨年放送された『エルピス-希望、あるいは災い-』(カンテレ・フジテレビ系)が、佐野亜裕美プロデューサーが当初ラブコメとして渡辺あやに依頼したところから始まり、局を離れ、「本当に描きたいもの」を追求した結果、6年後に大きく形を変えてカンテレで社会派エンターテインメントとして結実し、大評判となったケースだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる