小野寺系の「2023年 年間ベスト映画TOP10」 希望の灯を絶やさないために

小野寺系の「2023年映画ベスト10」

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2023年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、映画の場合は、2023年に日本で公開された(Netflixオリジナルなど配信映画含む)洋邦の作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第15回の選者は、映画評論家の小野寺系。(編集部)

1. 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
2. 『バーナデット ママは行方不明』
3. 『バービー』
4. 『熊は、いない』
5. 『TAR/ター』
6. 『ナポレオン』
7. 『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』
8. 『マルセル 靴をはいた小さな貝』
9. 『首』
10. 『ロスト・キング 500年越しの運命』

 ロシアはウクライナへの侵略を依然として続け、パレスチナ・ガザ地区では多くの市民がイスラエル軍の爆撃などにより死傷し続けている。罪のない子どもが大勢命を落としている最中にエンタメを楽しんでいたり、映画作品の序列を考えている場合なのかという葛藤が、最近とくに強まっている。仕事の分野は違えど、同じように思う人は少なくないだろう。

 そんな状況下で、映画の中心地たるハリウッドではイスラエルの軍事行動を支持あるいは是認する映画人も相当数いることが分かってきた。2001年のアメリカ同時多発テロ事件で、平和を主張する歌が放送禁止となったように、脅威が差し迫ってくると誰しも冷静ではいられなくなる。日本においても、一転して自分たちのこととなれば、どういう方向に傾くか想像に難くないし、政府が軍需産業を支援するなど、現時点でも軍事問題は対岸の火事とはいえない状況だ。

 こういう局面を迎えたとき、娯楽における「ポリコレ先進国」と見做したところのアメリカが道を誤っていると揶揄する声も見られるが、むしろそれは逆だ。日本の政権の汚職と欺瞞がいま暴かれ始めているように、世の中がこのように不公正で、利己主義へと傾きがちであるからこそ、娯楽や芸術は人間の真実、世界の真実を表現する努力を継続しなければならない。

『TAR/ター』©2022 FOCUS FEATURES LLC.

 ケイト・ブランシェット演じる『TAR/ター』の主人公のように、思想と作品の価値は関係ないという主張をする人は少なくない。芸術や娯楽はこれまで絶えず政治や社会状況と密接な関係にあったことを考えれば、そのような不見識に反論することすらバカバカしいが、それ以上に多様な人種や国籍、性別を受け入れる環境や価値観がなければ、そもそも自由に作品を撮ることすらできない事実があることを忘れてはならない。いままでになかった才能が海外で受け入れられたことで、われわれはさまざまな作品を楽しめ、日本映画界にも、いま好機が巡ってきている。

 アメリカも、もちろん一枚岩ではなく、イスラエルの暴挙に反対の声を挙げるユダヤ系市民も少なくない。日本にいろいろな考え方が存在するように、さまざまな国で他者への想像力を持つ重要性を、行動で示し続ける人がたくさんいるのだ。心ある映画人たちは、内省する態度の重要性を発信し続けていくだろう。そんな希望の灯を絶やさないよう、迷妄や身勝手さが生み出す幻影に惑わされていない、優れた作品を選ぶべく筆をとることにする。

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