麦倉正樹の「2023年 年間ベストドラマTOP10」 描かれるべき“物語”はまだまだある

麦倉正樹の「2023年ベストドラマ」

 その他では、SP版や映画版を経て、もはやこのキャスティングにすっかり馴染んでしまっていることに改め気づいた、信頼と安心の『きのう何食べた? season2』。タイトルの印象とは異なり、誰かひとりの存在ではなく、「田中さん」を中心に相互に関係する人々が、それぞれに影響を与えながら少しずつ緩やかな変化を遂げてゆくという、思いのほかていねいな「群像劇」が、軽妙なタッチで描き出されていった『セクシー田中さん』。

 夫の介護、夫の愛人との同居、嫁姑問題など、かなりシリアスでヘヴィな問題に対して真正面から向き合いつつも、自身の感情の揺れ動きについても真正面から向き合うヒロイン像が新しかった『ゆりあ先生の赤い糸』も強く印象に残った。そう、『いちばんすきな花』(フジテレビ系)を観ながら、「もっと感情をぶつけ合ってもいいのにな……」と思ってしまったのは、同クールに『ゆりあ先生の赤い糸』があったからかもしれない。まあ、年齢や世代によるものなのかもしれないけど、自分はこっち側ですね。山田太一原理主義者なので。

 と、ここまで書いてきて、『ブラッシュアップライフ』以外の作品が、すべて漫画原作、しかも女性作家による(と思われる)ものばかりということに気づいて改めて驚いたけれど、それは単なる個人的な「好み」ではなく、ある意味、時代的なものなのかもしれない。描かれるべき「物語」は、まだまだあるのだ。

 最後にもうひとつ。先ほど是枝監督の名前を挙げたけれど、映画監督が参加しているドラマシリーズという意味では、池田千尋監督が参加していた『初恋、ざらり』(テレビ東京系)、菊地健雄監督が参加していた『彼女たちの犯罪』(読売テレビ・日本テレビ系)、配信開始は昨年だったけれど、今年地上波でも放送されていた岨手由貴子監督、沖田修一監督、大江崇允監督らによる『すべて忘れてしまうから』、冨永昌敬監督がオダギリジョー主演で撮り上げた『僕の手を売ります』も、なかなか良かった。

 とりわけ、各話の最後にあるライブシーン(配信版ではフル尺で観られるので、そちらでの視聴をオススメ)が、ドラマに独特な余韻をもたらせていた『すべて忘れてしまうから』、冨永監督が、オダギリジョーの「あてがき」で、全話の脚本と演出を担当した、完全なオリジナル作品である『僕の手を売ります』は、もっと多くの人に楽しんでもらいたいと思って、リストに加えさせてもらった。今回選んだ10本の中で、完全なオリジナル作品は本作と『ブラッシュアップライフ』だけというのもあって。

 「原作もの」もいいけれど、どうしても原作との「比較」という観点が出てしまう。いろいろと事情があるのはわかるけど、そうではなく、最初から「テレビドラマ」という表現を前提とした「オリジナル作品」をもっと観たいし、そういうものを純粋に楽しみたいと、ささやかに思います。それは、演者や作り手も同じだと思うのだけれど……。ちなみに『僕の手を売ります』は、Prime Videoでも視聴可能なので是非。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる