三浦透子の芝居はなぜ心を揺さぶるのか “尊厳”を描く『大奥』が再映像化された必然性

『大奥』が再映像化された必然性

 歪んだ口もとに、おびえたような瞳、そして不明瞭な発声……かと思えば、男をはべらせ、酒をあおりながら、下卑たまなざしで小姓に微笑みかける。ドラマ『大奥』(NHK総合)第9回、三浦透子演じる徳川家重は、その登場時から、多くの視聴者の目をくぎ付けにした。

 一説によると、脳性麻痺の疑いがあり言語障害や排尿障害を患っていた可能性もあるという第9代将軍・家重。しかしながら、三浦の演技が「衝撃的」だったのは、その「見た目」ではなく「内実」に、身体を思うように動かせない自身への「落胆」と、見た目で能力を判断しようとする人々への「いら立ち」、そして長子でありながら、尊敬する母・吉宗(冨永愛)の期待に応えられないことの「無念さ」が、確かに感じられるところだった。なぜ、彼女の芝居に、これほどまで心を揺り動かされるのだろうか。それは、彼女もまた「踏みにじられた者」のひとりだったからに違いない。

 これまで、第8代将軍・吉宗の時代を起点に、第3代将軍・家光(堀田真由)、第5代将軍・綱吉(仲里依紗)の時代へとさかのぼりながら、男女逆転したこの世界の「大奥」の、知られざる「因果」と「物語」を描き出してきた今回のドラマ『大奥』。それはある意味、「踏みにじられた者たち」の群像劇だったと言えるだろう。「赤面疱瘡(あかづらほうそう)」という男子のみが罹患する奇病が蔓延するこの「世界」の太平を維持するため――すなわち徳川の権威を持続させるため、その血を絶やさぬよう、女子を将軍に据えて、「世継ぎ」をなすためにつくられた「仕組み」。それが「大奥」なのだ。

 赤面疱瘡に倒れた家光の「代役」として、己の存在を抹消されながらただひたすら世継ぎを産むことを強いられた千恵/家光。彼女の「尊厳」は、幼き頃に「大奥」へと拉致されて以来、踏みにじられ続けている。その一方、そんな家光の相手として、公家出身の僧でありながら、半ば脅されるような形で「大奥」で生きることを余儀なくされた万里小路有功/お万の方(福士蒼汰)。彼もまた、その「尊厳」を奪われ、踏みにじられた者のひとりだった。そんな2人の「悲しみ」が、やがて互いに身を寄せ合うような「愛情」へと変わるまで。それが、「3代将軍家光・万里小路有功編」だった。

 そして、父である桂昌院(竜雷太)の期待に応えるべく、その身を削るように、夜ごと男たちと褥を共にし続けてきた綱吉/徳子。自らがあらかじめ「尊厳」を踏みにじられた者であるがゆえ、将軍という「権威」を用いて、他人の「尊厳」を踏みにじることをいとわない彼女のもとに、秘めたる野心を胸に自ら「大奥」入りした右衛門佐(山本耕史)が現れる。子種としての存在価値しかない、貧しい公家の出身という自らの立場を逆手にとって、「権威」の頂点へと上り詰めようとする彼の「打算」と「思惑」が、綱吉のそれと絡まり合い、やがて「利得」を超えた、かりそめの「自由」に昇華するに至るまで。それが、「5代将軍綱吉・右衛門佐編」だった。

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