『彼方の閃光』鮮烈な印象を植え付けるショットの数々 モノクロームで繋がる現在と過去

『彼方の閃光』モノクロで繋がる現在と過去

 この写真集に収められている当時の長崎の街の姿はモノクロームであったはずだ。カラーが当然となった現代において、モノクロームの画像・映像というのはどうにも古めかしく感じられてしまうもので、自然とそれは“昔”や“過去”を象徴する、遠いものと化してしまうことは不可避である。しかしその両者とも、あくまでも“現在”との相対的なものに過ぎない。世界は昔も今もおおむねカラーであるが、それがモノクロームに落とし込まれた時、従来のようなモノクロームとカラー=過去と現在という短絡的な相対性は失われる。過去と現在が地続きであるという事実がまざまざと突きつけられると同時に、主人公が探訪する2019年とあの1945年が急激に接近することになる。

 映画は1時間ほど長崎での時間を過ごしたのち、沖縄へと向かうことになる。長崎では1945年を経験した老婆に話を聞こうとして拒まれた光と友部だったが、沖縄ではうちなんちゅの青年・糸洲(尚玄)と出会う。彼は1945年には生まれていないが、辺野古、轟壕、島のいたるところに存在する戦争の傷と苦しみを背負って2019年を生きている。戦争というものは、形式上終わらせることができるのかもしれないが、一度始まってしまった以上、街のなかでも人のなかでも深い森の奥であっても、必ずどこかで終わることなく続いているものだ。戦争の恐ろしさや不気味さは、なにも凄惨な描写や哀しいメロドラマや強烈なイデオロギーを有した言葉を使わずとも、人間をカメラに収めるだけで描けるのだと、この映画は教えてくれるのだ。

 最後にもうひとつルックの話をするならば、劇中にはフォトジェニックと呼ぶべきか、まさしく東松照明の写真のような鮮烈な印象を植え付けるショットがいくつも存在している。とりわけ目を引いたのは映画の序盤、長崎の夜。友部に頼まれて光に寝床を提供した詠美(Awich)が、路上に停めた車にもたれながら友部と背を向け合ってタバコを吸うシーン。これはおそらく、長崎新地の奥の唐人屋敷通りから一本入った路地で撮影されたものだろう。奥に続く階段が長崎の街を象徴し、右手側には旧丸金温泉跡が見える。こうした実在のロケーションがそのままのかたちで切り取られ、記録されていることも、土地とそこに根付く歴史に対する敬意のあらわれであろう。

■公開情報
『彼方の閃光』
全国公開中
監督・原案・音楽:半野喜弘
脚本:半野喜弘、島尾ナツヲ、岡田亨
出演:眞栄田郷敦、池内博之、Awich、尚玄、伊藤正之、加藤雅也
配給:ギグリーボックス
制作:GunsRock
©︎彼方の閃光 製作パートナーズ
公式サイト:https://kanatanosenko.com/

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