『呪術廻戦』EDは釘崎野薔薇のもう一つの走馬灯? 「more than words」の歌詞を考察

『呪術廻戦』EDから考えられること

 はたして「渋谷事変」に救いはあるのだろうか。もしかしたら欠片もないのかもしれないと思わせるほど、アニメ『呪術廻戦』は絶望的な展開が繰り広げられている。第42話「理非」では“ナナミン”と呼ばれファンも多い七海建人が死亡し、第43話「理非-弐-」においては虎杖悠仁、伏黒恵と肩を並べるメインキャラクターの釘崎野薔薇が「死亡した」と言わざるをえないほどの決定的なダメージを負った。

 第43話で釘崎の技「共鳴り」が真人に通用し、突破口が見え始めたころだった。真人の分身が地下に逃げ込み、虎杖と戦う本体と入れ替わる。釘崎はもろに本体によって顔を接触され、故郷の村に引っ越してきた友達のふみと沙織ちゃんを思い出す回想が始まった。よそものを拒む村の性質が原因で、最終的に沙織ちゃんはまた引っ越してしまう。胸糞悪いが、最後には大人になった沙織ちゃんが今でも釘崎を気にかけている様子が描かれる。「みんなに伝えて。悪くなかった!!」そう言って、顔面が破裂した釘崎は倒れたのだった。

 衝撃的な本編の後にふっと身体の力みが抜ける理由は、虎杖、伏黒、釘崎の3人が渋谷の街を楽しそうに散策するEDだ。EDでは3人がカメラを手にお互いの写真をパシャリと撮り合う。クレープを食べたりガチャガチャを回したり、“呪術高専1年ズ”が青春の1ページを作っている様子が描かれている。全体的に色彩が淡くぼんやりした光の演出が特徴で、夢の中にいるように現実味がうすい。

TVアニメ『呪術廻戦』第2期「渋谷事変」ノンクレジットEDムービー/EDテーマ:羊文学「more than words」

 このEDが、筆者の目には釘崎のもう一つの走馬灯のように映った。走馬灯は死に際に過去の出来事を思い起こすフラッシュバック現象であり、七海の死に際にもすでに死亡したはずの灰原雄が目の前に現れた。七海は虎杖にとってそれが呪いになってしまうことを恐れたが、灰原の幻影にうながされ「虎杖君、後は頼みます」と言い残してこの世を去る。釘崎が見た回想は走馬灯に近く、EDの楽しい記憶も一緒に垣間見たのではないだろうか。

 EDと共に流れるのが、羊文学の「more than words」だ。静かに始まるイントロは「渋谷事変」の激動の展開とは正反対。落ち着いた曲調の中で響きわたる塩塚モエカ(Vo/Gt)の歌声はとても澄んでおり、本編でバクバクと昂った心臓をおだやかに癒してくれる。「渋谷事変」の興奮をクールダウンできるのは、きっと「more than words」のおかげだろう。

 「more than words」の冒頭では〈彼が言った言葉 何度も思い返して 上手く返事できたか? グルグルグルする〉と主人公が思い悩む様子が歌われる。その原因は会話の受け答えやメールといった“言葉”によるものだ。しかし、〈give you more than words〉主人公は“言葉以上のもの”を与えることに気づき、前向きな感情に移り変わっていく。曲の後半で吹っ切れたようにポジティブな歌詞が続くのが印象的だ。

 では、“言葉以上のもの”とは何なのだろうか。愛情のような言葉では伝えきれない感情を指しているのだと感じる。「more than words」は葛藤の中で答えを見つけ前進する、思春期特有の“もがき”と青臭さを歌っているのではないだろうか。サバサバした性格の釘崎も、人知れずこのような葛藤を抱えていたのかもしれない。「more than words」と釘崎を重ねて聴いてみると、より釘崎が人間味のある魅力的なキャラクターに映る。ゆえに、なおさら第43話がしんどいのだ。

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