『力の強い女カン・ナムスン』オン・ソンウとピョン・ウソクの涙 善悪割り切れない展開に

『力の強い女~』ヒシクとシオの対照的な涙

 シオは、「やっとわかった。パベルが裏切り者を容赦なく殺す理由が」と言い、自分に見せていたツェツェグの天真爛漫な笑顔、タメ口で話す愛らしい声はすべて、ナムスンが自分を陥れるために演じていたことなのだと理解する。

 ヒシクがナムスンに自分の過去を明かし、ナムスンの愛に抱かれて流した涙は、きっと温かな涙だったに違いない。ヒシクの涙が流れた先は、愛という海に抱かれて眠る安堵の世界だ。

 一方、暗闇の世界にいたシオにもたらされた一点の光、ツェツェグ。彼女はシオを「努力すれば本物になれる光」と評し、その言葉にシオは、これまで望んでも得られなかった“愛や信頼”を手にしようとする。そんななかで起きた“愛する人からの裏切り”は、親に捨てられた過去を持つ彼にとって、あまりにも残酷すぎる。シオが流した涙は、氷のように冷たかったのではないだろうか。悲しみ、悔しさ、情けなさ、哀しさ、そして愛する女性への純愛を棄てさせる決別の涙。シオの涙の行き着く先は、凍てついた冬のロシアの海の底なのかもしれない。

 追い詰められたシオはさらなる殺人を犯し、ナムスンたちとの全面対決への火蓋が切られた。本作は、ナムスンたち一族の世直しを中心にしながらも、勧善懲悪ではないところが、観る側に複雑な感情を抱かせる。悪役=ヴィランであるシオの持つ背景が詳細に明かされるにつれ、シオにも感情移入してしまうのだ。

 悪人だからといって、騙してもいいのか。ディズニープラスで配信中の『最悪の悪』でも、魅力的なキャラクターが観る者の心に慟哭のような言葉をぶつけてくる。ナムスンがシオに向かって「信じて」と言った眼差しと、シオがいないところで放たれる言葉の裏表に眉を顰めるような思いになり、善とは何か、悪とは何かを考え込んでしまった視聴者も多いのではないだろうか。本作からは、私たちが二元論ではない世界へと進化していく時代の流れのようなものを感じさせられる。ナムスン一族がシオとどんなふうに解決を見せるのか、その手さばきを見守っていきたい。

■配信情報
『力の強い女 カン・ナムスン』
Netflixにて配信中
出演:イ・ユミ、キム・ジョンウン、キム・ヘスク
原作・制作:ペク・ミギョン、キム・ジョンシク、イ・ギョンシク
(写真はJTBC公式サイトより)

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