アニメ『鬼武者』が示唆する現代の重要なテーマ 主人公のモデルとなった三船敏郎から考察
PlayStation 2の時代に、世界で大ヒットを達成したCAPCOMのゲームソフト『鬼武者』シリーズ。「戦国版『バイオハザード』」と呼ばれたように、日本の武者が時代劇の世界観のなかで怪物たちを斬りながら進んでいくアクション作品だ。金城武、松田優作、ジャン・レノと、実在の俳優や、すでに亡くなった俳優をキャスティングしてCGで表現したことでも話題を集めた。第2作の企画段階では、冗談まじりに三船敏郎を主人公役にしたいという声もあったのだという(※)。
その『鬼武者』シリーズが、意外にもアニメシリーズ『鬼武者』というかたちになって、久しぶりに帰還した。今回は主人公を剣豪・宮本武蔵に設定し、三船プロダクションの協力のもと、念願の三船敏郎(声:大塚明夫)のキャスティングを実現。さらに総監督に三池崇史、監督に須貝真也(アニメ『ドラゴンズドグマ』)、キャラクターデザインを、惜しくも2022年にこの世を去った超絶技巧のイラストレーター、キム・ジョンギが手がけたという、豪華な布陣だ。
三船敏郎といえば、『七人の侍』(1954年)などの作品で、世界中の観客やクリエイターを魅了した、日本で最も有名な俳優だったと言っても良いほどの存在。ゆえに本作は、『鬼武者』ブランド以上に、三船ブランドの作品としてインパクトを発揮するシリーズになっているのではないか。しかも、宮本武蔵という役柄ながら、その所作は同じ黒澤明監督作の『用心棒』(1961年)や『椿三十郎』(1962年)の主人公そのもの。作り手の意図はどうあれ、黒澤&三船オマージュ作品としての期待がかかることになった。
そんな本シリーズ『鬼武者』は、果たしていま、何を投げかけるのだろうか。本作が示唆する、現代にとって重要なテーマや、同時に発生してしまった課題についても掘り下げていきたいと思う。
本作で強い印象を与えられるのは、やはり三船敏郎の演技を模した主人公・宮本武蔵のキャラクターだろう。前述したように“三十郎”の所作が反映され、あの両方の肩を時間差で上下に揺する特徴的な動きが見られるのが嬉しい。
ゲーム『鬼武者』の常として、鬼の力が封じ込められている「鬼の篭手」の力を借りることで、人間の力を超越した数々の敵と戦うことになる武蔵だが、生身のままでは寄る年波に勝てずに山道でへばったり、高い吊り橋の上で恐怖にかられて動けなくなるなど、情けない面も見せる。これこそ“三十郎”的な、愛すべき武蔵像だといえよう。声を演じているのは、ゲーム『メタルギアソリッド』シリーズのスネークや、『ルパン三世』の次元大介などを手がける、渋い声で定評のある大塚明夫だ。
「もうそろそろ四十郎」と、劇中で名乗っていた三十郎を演じていた三船は、当時40代。充実した気力が残りながらもいよいよ“味”が増し、役者としての魅力が横溢していた。まさにその時代の、パブリックイメージそのままの三船が、そこにいる。