『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』を名作映画と並べて解説 初心者も必見の“現代性”

『攻殻機動隊』新作を名作映画と並べて解説

 士郎正宗が1989年に発表した漫画『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』を押井守監督がアニメーション映画化した『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)から、30年弱。同シリーズは『イノセンス』『攻殻機動隊ARISE』『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』、ハリウッド実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』、そして最新作『攻殻機動隊 SAC_2045』など、様々な映像化が行われて今日に至る。

 そして、11月23日には『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』が劇場公開。本作は、神山健治と荒牧伸志が監督を務めてNetflixで2シーズンにわたり配信されたアニメシリーズを再構成した劇場版第2作。1作目『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』に続き、『新聞記者』『余命10年』の藤井道人が監督として加わり、新たなシーンを盛り込んだ劇場版として再構成した。

 派生作品が多く作られているということは、それだけシリーズの歴史が長く、多くのファンが存在するという証明でもある(実写畑の感覚でざっくり語るなら、『ブレードランナー』や『ジョン・ウィック』といったビッグコンテンツのような広がり方をしている、といえば伝わりやすいだろうか)。とはいえ、ビギナーからすると複雑に感じてハードルが上がってしまうかもしれない。

 そこで本稿では『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』(と『持続可能戦争』)に絞り、内容を紹介していく。「攻殻機動隊」を知らない・詳しくないユーザーに向けた視点で展開していくため、シリーズファンの皆様にはご容赦いただければ幸いだ。

 本作はタイトルにある通り、2045年の近未来を舞台にしている。過度に発達したAIが引き起こした世界規模の経済災害(全世界同時デフォルト)を受けて、各地で持続可能な戦争「サスティナブル・ウォー」が勃発する時代へと突入。ポスト・ヒューマンと呼ばれる新たな脅威が台頭し、主人公の草薙素子率いる公安9課は、核大戦の危機を回避すべく奔走するーー。という筋書きだ。

 AI(人工知能)やコンピュータ/機械が人間を追い越し、世界が激変するという設定自体は、映画ファンにとってなじみ深いものだろう。『ターミネーター』ではAIコンピュータ「スカイネット」が核戦争を引き起こし、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の影響が色濃い『マトリックス』では、人類は機械との戦争に敗北し、“電池”として扱われる。『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』では人工知能が反乱を起こし、『ザ・クリエイター/創造者』では人類とAIの対立と融和が描かれる。

 また、『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』では、世界の支配権をめぐって各国によるAI争奪戦が行われる。AIに付き従う人間が登場したり、スパイグッズがハッキングされてデジタルの戦いを捨てる/AIに予測できない突拍子もない行動をとることで裏をかく、といったような描写が導入された。現実世界においても、AIの発達がクリエイターの仕事を奪うとして国内でも規制やルールが設けられたり、ハリウッドで起こったストの争点のひとつになっており、AIに対する“便利さと危険度”は一般化されてきている。

 そんななか、『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』で描かれるのは、サスティナブル・ウォーの真相。元々、人類全体の恒久的繁栄を目指すために作られたAIには「戦争こそが最も効率的な経済的行為」とプログラムされていたのだ。おぞましいことだが、軍需産業しかり戦争が起こるとカネが動くというのは現実世界でも然りで、そのため「戦争をデザイン」するという発想が生まれる。その論理で行くと、戦争を持続可能なものとして“運営”することで、恒常的な利益が見込めるという思考は理に適っているとも見えるわけだ。人道にもとる鬼畜の考えだが、だからこそAIに試算・実行させようとするというところに、痛烈なエグみを感じずにはいられない(SDGsに代表される「サスティナブル」というワードの皮肉めいたチョイス然り)。

 だが、AIが試算した結果「富のバランスが著しく不均衡に陥る」という解が導き出される。そんななか「人類全体が反映しつつも、アメリカだけが利益を享受できるようにしろ」というオーダーが出され、AIは既存の世界経済を一度リセットするために世界同時デフォルトを起こすことにする。つまり、AIが暴走して世界同時デフォルトに陥った結果サスティナブル・ウォーが勃興したのではなく、その逆というわけ。まさにマッチポンプ状態だ。

 マッチポンプというと小難しく聞こえるかもしれないが、要は「自分で問題を起こし、解決することで利益を得る」自作自演のこと。様々な物語のテーマとして人口に膾炙しており、例えば『ONE PIECE』に登場するヴィランたちは、裏で糸を引いて事件を起こしながら、それを解決して見せることで英雄や王として君臨しているパターンが多い。『僕のヒーローアカデミア』や『呪術廻戦』ではヒーローや呪術師とヴィランや呪霊は共依存の関係にあり、双方にその意志がなくともマッチポンプ構造であるとの指摘がなされる。魔法少女×ベンチャー企業モノの漫画『株式会社マジルミエ』では、人工的に災害「怪異」を発生させることで投資家たちが儲かるシステムが秘密裏に蠢いているーーという展開が用意されている。

 ただ、『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』で言及されるように、人類の恒常的繁栄とは程遠く、弱者がさらなる地盤沈下を起こしただけ。しかも世界同時デフォルトはアメリカ(の仕掛人たち)にも被害が及び、事実の隠蔽のためにさらなる衝突が生じ、ポスト・ヒューマンが誕生した……という何ともシリアスな説明がなされる。しかも事態はそこで終わらず、さらなる火種が生まれ、米軍VS公安9課VSポスト・ヒューマンの壮絶な三つ巴の死闘が始まってしまう。

 ここまで紹介してきたように、『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』そして前編となる『持続可能戦争』で描かれるのは、現実の世界構造や人類史に接続した社会派なストーリーだ。「義体」や「電脳」といったSF的な設定であったり、専門用語が飛び交うために一見さんお断りのイメージが強いかもしれないが、物語の根幹はいまを生きる我々に強烈に刺さるものであり、いわば前提知識を持っている状態ともいえるのではないか。

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