『ブギウギ』辛口な初恋の終わりが意味するもの 「センチメンタル・ダイナ」の切ない響き

『ブギウギ』初恋の終わりが意味するもの

 秋山と中山の関係は、まぎれもなくセクハラ色が濃い。男役をやりたくて入団した秋山に、女性役で、自分とペアを組んだほうが輝くと中山は転向を勧める。彼は秋山の気持ちよりもまず、自分のために秋山の才能がほしいようなのだ。そして、秋山の女性としてのポテンシャルに気づき、育て花開かせたいという気持ちは、どこか、性的な搾取の気配がする。中山は、自身の優位性を利用して女性に迫っているように見えた。演じている俳優にはお気の毒だが、芸能界の悪しきイメージの代表のような役割だった。

 秋山には、中山とつきあって、たぶん深い関係にもなっていそうで、自分のなかの知らなかった女性的な部分が顔を出してくることと、それでも、男役がやりたいという思いとのせめぎ合いが、表情や仕草に見え隠れしていた。この秋山の物語はもっと深掘りしてもおもしろそうだ。ちょっと『エースをねらえ!』で描かれた、女性のパワーテニスの追求にも近いものを感じた。男性と体格と体力でなかなか勝てないという限界を、主人公が必死の努力で突破していく『エースをねらえ!』のヒロインと、男以上にカッコいい男を演じたいのに、カッコよくて実力のある男にはかなわないという現実に向き合う秋山が重なって見えたのだ。

 

 秋山は、男役を諦め、公私共に彼を支える女性ダンサーとして生きるか、悩んだすえ、大阪に戻り男役を追求することを選ぶ。スズ子は、思いとどまったとはいえ、感情が先走り理性が効かなくなって移籍騒動を起こすという失態をしてしまった。女性たちの自由な生き方を規定したり、抑制したりしてしまいそうな男性像を体現した松永と中山に対して、羽鳥(草彅剛)はまったく性差を感じさせないフラットな人である。ただただ音楽を愛し、スズ子の今の思いを歌にして、彼女に歌わせようとする。彼もまた自分のやりたい音楽の世界を体現する才能としてのスズ子を求めているわけだが、彼のやりたいことは、彼女が自由に解放される音楽なのだ。羽鳥の曲によってスズ子は我に帰ることができた。

 松永もスズ子と羽鳥がベストパートナーだと認める。結果的に松永が、スズ子と羽鳥という最強のパートナーを出会わせたことで、松永もいいことをしたのである。ところがそんな羽鳥とスズ子の純粋な関係を、世間は「師弟愛を超えた」と揶揄しはじめる。世の中はほんとうに面倒くさい。男と女、はたまた恋が、物事をややこしくする。でも、それがあるから人生はおもしろいともいえるわけで。スズ子のひとり相撲や、秋山の葛藤は、恋によって生まれたものだ。こういう割り切れなさややるせなさが、スズ子のジャズには似合ってもいる。「センチメンタル・ダイナ」はそんな曲だった。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

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