『いちばんすきな花』自分の“エゴ”とどう折り合いを付けるか? 少しずつ芽生えた4人の想い

『すき花』自分のエゴとの折り合いの付け方

 かつて、親友の赤田(仲野太賀)が結婚(恋愛)相手から女友達と2人で会ってほしくないと言われたことから、友情を失ったゆくえ。間違いなく、ゆくえと赤田は友達だったのに。どうして友情が恋愛よりも優先されて当たり前だと思われているのか、彼女のなかでまだ腹に落ちていないのだろう。それと同時に、その大きな流れに徹底して抵抗することもなく受け入れたから、結局は自分も同じなのだけれど。

 そんな男女の友情は「成立する」派のゆくえに、かつては「成立しない」派だった夜々は「条件次第で成立する」と考えを新たにしたことを告げる。そして「紅葉くんは友達です」とも。その言葉に、夜々が考えた「条件」とは「お互いに別の好きな人がいること」なのではないかと感じた。

 「好きだった人」には「好きだった人同士で幸せになってほしい。その幸せはなんぼあってもいい」と素直に思える夜々も、今「好きな人」は自分と幸せになってほしいと願う。そんな夜々に、ゆくえも「それくらいのエゴは許されるでしょう」と笑う。自分と特別な2人組になってほしいと願うこと。その唯一無二のポジションを誰にも渡したくないというエゴの押し付けが、どうも世間一般的には友情よりも恋愛のほうが許されているのかもしれない。

 だから、ひょんなことから椿の家にやって来た赤田が、嫉妬心全開でゆくえと椿の関係性について責め立てる姿には、全員が困惑していた印象だった。突然の修羅場に巻き込まれた椿はもちろん、赤田自身もなぜそこまで感情的にならずにはいられなかったのかと戸惑っていたようだし、ゆくえも男女の友情が成立することを証明するような存在の赤田が椿との恋愛関係を疑ってくるのか納得ができなかったのだろう。

 これまでも4人のなかで、友情ゆえの嫉妬心は度々見受けられた。ゆくえが遠くにいる古くからの友人・美鳥と親しげに電話をすることに、紅葉や夜々が面白くなさそうな表情を浮かべたことも。でも、それを直接ゆくえに直接ぶつけることはしなかった。友情の形は2人だけではないから。友達は、現在進行系で好きな人ではあるけれど、自分だけじゃなくて「なんぼあってもいい」と幸せを寝返るものだから。

 自分の気持ち(エゴ)の優先順位を上げてもらおうとすり合わせることも、ぶつかることを避けるように下げて我慢し続けることも、どちらも簡単なことではない。3人や4人ならフォロー役が入れるけれど、2人になるとその余裕もなくなりがちだ。「美鳥も一緒ならまた赤田と普通に戻れたりするのかな?」なんて愚痴るゆくえの姿を見て、彼らが2人組を苦手としてきた本質的な理由が紐解かれてきたように思った。

 ありのままの自分を相手にさらけ出し、相手もまたそんな自分のエゴを愛しく思えてもらえる関係性のなんと稀有なことか。だからこそ、それぞれの恋心もありながら、奇跡的に友情が成立しているこの4人の空間をいつまでも眺めていたくなる。

 だが、ついに椿があの家を引っ越すことを決意した。「部室」とは、いつかは卒業していくもの。その例え通りに、次なるステージに向き合うタイミングがきたということだろうか。この大きな変化に、彼らはどう自分のエゴと、相手の気持ちを優先しながら折り合いをつけていくのか。そして暗黙の了解で集まっていた4人組が、どんな形に変わっていくのかますます目が離せない。

■放送情報
木曜劇場『いちばんすきな花』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:多部未華子、松下洸平、神尾楓珠、今田美桜、齋藤飛鳥、白鳥玉季、黒川想矢、田辺桃子、泉澤祐希、臼田あさ美、仲野太賀ほか
脚本:生方美久
プロデュース:村瀬健
演出:髙野舞
音楽:得田真裕
主題歌:藤井風「花」(HEHN RECORDS / UNIVERSAL SIGMA)
制作・著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/ichibansukina_hana/
公式X(旧Twitter):@sukihana_fujitv
公式Instagram:@sukihana_fujitv

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる