『いちばんすきな花』『silent』『初恋の悪魔』 J-POP演出がヒットドラマの法則に?

J-POP演出がヒットドラマの法則に?

 年齢も性別も異なる男女4人の個性をぶつけ、「男女の間に友情は成立するのか」という人間にとって永遠のテーマに真正面から挑むドラマ『いちばんすきな花』(フジテレビ系)。2022年度10月クールに放送され、社会現象を巻き起こした『silent』(フジテレビ系)のチームが再集結するとあって放送前から注目されていた本作は期待値を大きく超え、第1話からX(旧Twitter)で世界トレンド1位を獲得した。

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 中でも多くの人の印象に残ったのが、主人公の一人・潮ゆくえ(多部未華子)が唯一心を許せる友達の赤田鼓太郎(仲野太賀)とカラオケをする場面だろう。赤田の結婚が決まり、ゆくえは次の選曲に「安室ちゃん(「CAN YOU CELEBRATE?」)と木村カエラ(「Butterfly」)どっちがいい?」とウェディングソングのど定番2曲を挙げる。だが、実際に入れたのはコブクロの「永遠にともに」。結婚式当日を迎えた人の決意を歌った名曲には違いないが、とある芸能界のスキャンダルで若干負のイメージがつきまとうこの曲をゆくえがあえて選んだことで、二人の気の置けなさがうかがえた。

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 一方、赤田が異性と密室で会うことの同意をパートナーから得られず、ゆくえに「もう会えない」と告げる場面。別れ際、ゆくえが歌ったのは「Butterfly」だった。男と女だから、という理由のみで友情が引き裂かれるのはゆくえにとって受け入れがたいことだったが、最終的には結婚相手の意思を尊重し、自分の元を去っていく赤田をその曲で祝福したともいえる。また、本作は“二人組”を作るのが苦手な人たちの物語。その一人であるゆくえが唯一、一緒に二人組を作れた赤田と音楽デュオであるコブクロの歌をデュエットする場面から、ソロアーティストの木村カエラの曲を一人で歌う場面に転換する流れは非常に切ない。

 脚本家の生方美久は、こうした登場人物の歌唱シーンを印象的にドラマの中に組み込む。連ドラデビュー作となった『silent』でも、ヒロインの青羽紬(川口春奈)と元彼・佐倉想(目黒蓮)の思い出の曲としてスピッツの「魔法のコトバ」を採用。大人になって偶然再会を果たした二人の状況に〈また会えるよ約束しなくても〉という歌詞が重なった。が、その頃には想が完全に聴力を失っており、かつてのように同じ音を共有できない二人の切なさを身をもって実感できたのは、映画『ハチミツとクローバー』の主題歌としても印象深く、おそらく多くの人が聴いたことのある曲だったからこそ。障壁を乗り越えて二人で生きていくことを決めた紬と想が〈魔法のコトバ 二人だけにはわかる〉との歌詞を体現するように、耳打ちして笑い合うシーンも含め、同曲はドラマの重要な小道具となった。

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 生方がリスペクトする坂元裕二が脚本を手がけた『初恋の悪魔』(日本テレビ系)でも、J-POPが印象的に使用されており、鹿浜鈴之介(林遣都)、馬淵悠日(仲野太賀)、摘木星砂(松岡茉優)、小鳥琉夏(柄本佑)の4人がカラオケでYUIの「CHE.R.RY」を歌う場面が話題に。同曲は2007年にリリースされ、au「LISMO」のCMソングとして一時期常にテレビで流れていた。特に当時、青春を送っていた視聴者は「このサビ(〈恋しちゃったんだ たぶん 気づいてないでしょう?〉をスルーできる人間はこの世に存在しない」というセリフに首がもげるほど頷いたのではないだろうか。ちなみに4人の年齢は明示されなかったが、こうした実際の曲を使うことのメリットはそれを選曲した登場人物の世代間が何となくでも伝わることにある。

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