朝ドラ『ブギウギ』趣里の笑い顔には“バドジズデジドダ”の真髄が詰まっている
さらに、もうひとつ思い浮かぶことがある。もしかして、そこには、羽鳥のなかのふたつの面を、ふたりの歌手に託したのではないだろうか。羽鳥の妻・麻里(市川実和子)は、夫について、やりたい音楽がなかなかできなかったときもあったけれど、最近は楽しそうなのだとスズ子に話していた(第29話)。いつもニコニコして、飄々として、心のうちがわからないが、羽鳥なりに悩みもあるようなのだ。戦時歌謡は作れないと、手を出さないことからも、何か心情を慮ることは可能であろう。
羽鳥のモデルである作曲家・服部良一は、一時期上海に渡るが、それは戦時歌謡を作ることを避けるためだったのではないかとも言われている。戦争に加担したくない意思があったかどうかはわからない。が、少なくとも戦争によって大好きなアメリカの音楽ができなくなることは服部にとって耐えがたいことだっただろう。羽鳥はどうなのだろうか。今後、羽鳥の考えがもっと描かれるのかどうか興味深い。
「ラッパと娘」は「楽しいお方」と「悲しいお方」の2パターンの方に呼びかけた歌。楽しい人はもっと楽しく、悲しい人も楽しくなる歌なのだ。悲しい人が思い切り歌って踊って楽しくなるような、やけっぱちの泣き笑いのようなものがスズ子の顔にはある。実際、彼女の魅力がスパークしたきっかけも、羽鳥へのやけっぱちの気分であった。七転八倒しながら歌って踊っているときのスズ子のクシャっとした笑い顔には、“バドジズデジドダ”の真髄がある気がする。そして、“笑う鬼”という二律背反の異名を持つ羽鳥もまた、心のなかで濁音が暴れまわっているのではないだろうか。そして、そういう役に草彅剛がじつにみごとにハマっている。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK