朝ドラ『ブギウギ』趣里の笑い顔には“バドジズデジドダ”の真髄が詰まっている

『ブギウギ』趣里にバドジズデジドダの真髄

 “バドジズデジドダ”の響きは魔法の呪文のように、聞く者をワクワクさせる。朝ドラことNHK連続テレビ小説『ブギウギ』第6週「バドジズってなんや?」では、福来スズ子(趣里)が、バドジズ、デジドダの意味を模索し、ついに体現する。

 満たされないものを埋めたくて、スズ子は梅丸楽劇団の旗揚げに参加すべく上京した。秋山美月(伊原六花)と下宿で共同生活をしながら、レッスンに通う日々のなかで、羽鳥善一(草彅剛)と出会い、“笑う鬼”と呼ばれる彼の洗礼を受ける。

ブギウギ第28話

 羽鳥はニコニコしているけれど、追求する表現には一切の妥協がない。スズ子の歌になかなかOKを出さず、具体的な指摘をしないで、ただ何度も何度も「違う」「違う」と繰り返すだけ。彼の作った新曲「ラッパと娘」はジャズで、スズ子がこれまでやってきた楽曲とはまるで違っていた。楽しく、とか、スズ子らしく、とか言われても、わからなくて萎縮していくばかり。そんなとき、松永(新納慎也)に、羽鳥に対する感情をそのまま歌にぶつけたらいいと助言され、「殺してやる」という意識で歌ったら、羽鳥は俄然、喜んで、そこから、レッスンが深まっていく。

 スズ子が心に抱えていた鬱憤を爆発させたことが「バドジズ」「デジドダ」のノリにハマったのであろう。「バドジズ」も「デジドダ」も、羽鳥が勝手に作った造語で、そこに深い意味はない。「シャバダバ」というのもあるように、ジャズにおけるスキャットという、気分を音として表す方法だ。『ブギウギ』の主題歌「ハッピー☆ブギ」にも「ダバドゥディダー」というのがある。楽器の音色と歌の間(はざま)のようなものと考えたらいいかもしれない。

 「バドジズ」も「デジドダ」も濁音である。濁音は、強さやスケールの大きさを感じさせる音と言われ、濁音が入った音を使った言葉は、怪獣の名前やロボットもののタイトルなどに使用されることが少なくない。「ゴジラ」「ガンダム」などである。「ジャズ」も「ブギウギ」も濁音の単語である。

 濁音にはツンツンと尖った強さがある一方で、濁音の「濁る」という意味合いから、ノイズの印象もあって、澄み切らない、晴れ晴れしないイメージも浮かんでくる。第29話、辛島(安井順平)がスズ子に、ジャズ発祥の由来をワケ知りに語ろうとして、松永に「外してくれないか」と言われてしまっていたが、辛島が語ろうとしたのは、南北戦争が終わって奴隷化されていた黒人たちが解放され、軍からの払い下げの楽器を用いるようになって生まれた楽曲であるという歴史だ。その前に、黒人の憂いを歌ったブルースがあって、それが変容していったのが、ジャズである。

 羽鳥は、茨田りつ子には「別れのブルース」というブルースを提供している。その歌に憧れたスズ子には「ラッパと娘」を提供し、ジャズを歌わせようとしている。同じ人はいらない、それぞれの個性を出してほしいと思っている羽鳥だから、茨田には人間の哀しみをダイレクトに歌わせ、スズ子にはちょっと型破りな楽しさのあるジャズを、と二分したであろうことは容易に想像できる。

 茨田は、スズ子の歌を下品だといやがっている。茨田のモデルであるスター歌手の淡谷のり子は、青森の豪商のお嬢様。音大出身の正当な実力派である。茨田が淡谷をどれくらい踏襲しているか定かでないが、スマートな茨田に対して、スズ子は庶民的な学校も出ていない叩き上げという両極端に描いていることも見てとれる。

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