アイナ・ジ・エンドが語る、BiSH解散後の“居場所” 「自分で見つけていくのが人生」

アイナ・ジ・エンド、BiSH解散後の居場所

 アイナ・ジ・エンドの歌とダンスにおける表現力は、様々なクリエイターの創造力を刺激してきた。素朴も奇抜も、演出の狙いを咀嚼して自身の表現として昇華させてしまうのがその魅力だ。10月13日より公開中の岩井俊二監督作『キリエのうた』でキリエ役として演技に初挑戦し、圧倒的な表現力で岩井の描いた歌姫像を見事に形にした。

 BiSHのメンバーとして活動するや否や歌とダンスで自身の舞台を切り開いていったアイナだが、2023年6月にBiSHが解散した今、彼女にとって自身の居場所はどこにあると感じているのだろうか。歌うことで周囲との繋がりを獲得していったキリエの役柄とあわせて、アイナが「表現すること」をどのように考えているか、話を聞いた。

「笑ったり泣いたり怒ったりできる人がいる環境、それが居場所」

アイナ・ジ・エンド
ーー本作の中でキリエは「私には歌しかない」という発言をします。アイナさんも過去のインタビューで同様のことを言われていましたが、アイナさんにとって「歌」とはなんですか?

アイナ・ジ・エンド(以下、アイナ):私にとって歌は“生きがい”です。「衣食住、プラス踊りと歌」というのが自分の人生の中で大切なものであり、なくてはならないものです。

ーー同時に、キリエにとっての「歌」はなんだと思いますか?

アイナ:居場所。やっぱりキリエは歌っていると、広瀬すずちゃん演じるイッコさんがそばに来てくれたり、松村北斗さん演じる夏彦が朗らかに笑ってくれたり、歌うと温かい存在が周りにできていくんです。でも、“歌えない”キリエはやっぱり喋れないし、家もないし、1人ぼっち。歌が人を繋げていって、歌が生活をくれるんです。風琴(村上虹郎)や松坂珈琲(笠原秀幸)に出会ってフェスに出られるとか、歌を歌っていく中で、人に出会って、居場所が増えていく。だからやっぱりキリエにとって歌は居場所なんじゃないかなと思ってます。

ーーそれはアイナさんにとっても同じですか?

アイナ:私も一緒ですけど、私の場合は踊りとかも好きなので、歌に限らないかもしれないです。歌とダンスで1つ。表現することが好きです。

ーー表現を通じて他者と繋がるというのも生きがいの中に含まれていると。

アイナ:そうですね。やっぱりせっかく生まれてきたからには伸び続けて死にたいなと思っていて、伸び続けられることとして、自分は歌とダンスかなって。例えばそれが、花屋さんでも、消防士さんでも、服屋さんでも何でもいいんですけど、私の場合はそれが歌とダンスで伸び続けて死にたい。その間にいろんな人に出会えたらいいなと思っています。

ーーアイナさんはこれまでに大阪から上京して路上で歌っていた経験があり、その後BiSHのメンバーになり、そして2023年6月に解散を迎えました。今のアイナさんにとって居場所はどこにあるんでしょうか?

アイナ:居場所……でも、どこでも作れるんですよ。歌ったり踊ったりじゃなくていいんですよ。笑ったり泣いたり怒ったりできる人がいる環境、それが居場所です。家でもいいし、友達といるだけでもいいし、どこでも居場所を作れるんだって最近気づいて。それまではBiSHが居場所だと思ってしがみついていたんですけど、解散してからもう野放しになったときに、自分で居場所を見つけていくのが人生なんだと思ったら「(居場所が)多い方が良くない?」と思いました。1つにこだわって、依存して、しがみついて生きるよりかは、どんなとこでも息ができるというか。いまの自分も楽だし、どこでも居場所にできるなと思います。

アイナ・ジ・エンド
ーーどうしてそう思えるようになったんでしょうか。

アイナ:なんかもう十分やった気がしますね。BiSHで年頃の女の子が集まると、いろんないざこざもありましたし、それでももちろん同じ方向に向かって、ひたすらに向き合って、東京ドームまで行けたし、叶わなかったはずの夢が叶っていったし、やり遂げられたなって思うんです。それはBiSHとしての居場所をしっかりと全うしたからだと思います。

ーーなるほど。

アイナ:もう、こだわりはいいかな。これからは自由に。特に場所にこだわらず、どこでも息ができる人生にしていきたいと思っています。

ーーその考え方をキリエに当てはめるとどうですか?

アイナ:キリエは、やっぱりまだそういう感じではないと思います。大切な人を繋いでいく手段として歌を歌っていく。キリエはまだ一歩を踏み出した瞬間の状態な気がします。私とキリエはそういうところで全然違うかも。キリエにはすごく悲しいことが起こってるし、言葉で言い表せないぐらい、多分キリエは心に深い傷を負っていると思います。そこはアイナ・ジ・エンドと圧倒的な差があると思います。その深いダークサイドの中で生まれてくる歌っていうのは、やっぱり人に届くんじゃないんですかね。だからこそ本物の友情が芽生えてるのだと思います、広瀬すずちゃんのイッコさんとか。だからもう、私よりももっと素晴らしいボーカリストになると思います。

ーーそういうキリエを演じるにあたって、演技にはどんな工夫を込めましたか?

アイナ:私、お芝居とか演技とか初めてで。本当に右も左もわからないって言葉がぴったりな状況で現場入りさせていただいたんで。全部必死だったなと。歌を作るのも歌うのも、セリフを覚えるのも、すべて全力でしたね。だから何も言えることがなくて。

ーー歌の部分で意識したポイントはありますか?

アイナ:それは(言えることが)あります。キリエは小学校ぐらいからあんまり人と話せなくなっちゃったので、日本語はあんまり知らないのかなと思いました。だから、楽しい、嬉しい、悲しい、寂しいとか、本当にわかりやすい日本語をいっぱい歌詞に詰め込みました。例えばアイナ・ジ・エンドだったら“楽しい”のことを「華々しい時間だった」のように比喩を使うと思うんですけど、キリエはそういうことができない。だから「月ぐらいなら、行っちゃえよ!」みたいな“あどけない勇敢さ”が残ったものをキリエの歌詞として作りました。

ーーこれはキリエの演技も、普段のアイナさんにも言えることですが、歌詞と歌い方はそれぞれリンクするものですか?

アイナ:やっぱり心は一緒なんで。いくら役を作るとかなっても、やっぱり心、というのがある。自分にはしっかり自分の心がある。まだ女優さんみたいにオンオフみたいな切り分けが私はまだ上手くできなかったんです。「キリエ」というフィルターを通して、私の心が歌う。どんなお芝居だって、キリエという役を演じながら私の心が喋る。これはもう課題でもあり、自分の長所でもあるのかなと思っています。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる