『薬屋のひとりごと』は「なろう系」集大成? チート展開でも猫猫を応援したくなる理由

『薬屋のひとりごと』はなろう系の集大成?

 10月からTVアニメの放送が始まった『薬屋のひとりごと』。主人公の猫猫は薬に関する豊富な知識を持ち、その才覚を美青年の宦官に見出されて活躍する……というチートに近い出世を体験する人物だ。

 この展開だけを見れば「猫猫はずるい」といった反応も寄せられそうなものだが、不思議なことに、SNSには猫猫への称賛や応援のコメントが多くみられる。

 なぜ、チートのような展開でも猫猫、及び『薬屋のひとりごと』の作品全体が好まれるのか。

 この記事では、なぜか猫猫を応援したくなる『薬屋のひとりごと』の魅力を、本作が属する「なろう系」名作アニメとの共通点と違いを踏まえて探る。

『薬屋のひとりごと』ノンクレジットOP:緑黄色社会『花になって』【毎週土曜24:55~ 日本テレビ系にて全国放送中! 】

善悪をわきまえた普通の少女

 『薬屋のひとりごと』が好かれる最も大きな要因は、猫猫の普遍性だ。胸が小さい、そばかすがある、背は低めでお世辞が苦手……。猫猫の姿や行動を見て、「わかる……」と感じた人も多いことだろう。

 猫猫は大半の人にとって何かしら共感できる要素を持つキャラクターであり、だからこそ彼女は、多くの視聴者に応援されるのだ(そばかすは後に化粧であったと判明するが)。

 一般的な少女が活躍するなろう系と聞いて思い浮かべるのは、本好きの女子大生・本須麗乃が異世界に幼女・マインとして転生する『本好きの下剋上』。この作品と『薬屋のひとりごと』には、どのような共通点と違いがあるのだろうか。

 まず、マインと猫猫の行動にはどちらも観る人を夢中にさせる熱意がこもっているが、知識を活かしても上手くいかない場面や、知識に長けた故の苦しい出来事に直面する。

 作品を楽しんでいる私たちが頷いてしまうような「なかなか思い通りにいかない世の中」を試行錯誤をしながら乗り越える彼女たちの姿が、視聴者に希望を与えているのだろう。

 そして、『薬屋のひとりごと』と『本好きの下剋上』の最たる違いは主人公の利他性だ。転生当初のマインが自分が清潔に暮らせる環境や本への欲求を満たすために動いたのに対し、猫猫は初めから病に侵された赤子を救おうとする。

 実際、原作となる「小説家になろう」の『本好きの下剋上』ページには、「最初の主人公の性格が最悪です。ある程度成長するまで、気分悪くなる恐れがあります」との注意書きがあり、序盤のマインの性格の悪さはお墨付き。

 作者自らに“性格が最悪”と注を付けられたマインを踏まえると、猫猫は善悪をわきまえた、視聴者が応援したくなるような少女と言えるのではないだろうか。

 また、一般人がヒーローやヒロインになるストーリーは「なろう系」の得意とするところであり、その展開が多くの人を惹きつけるのは過去の人気作が証明している。

 大ヒットした『転生したらスライムだった件』『Re:ゼロから始める異世界生活』はどちらもごく普通の男性が異世界に行って活躍する話であり、チートな展開を含めても、ありあまるワクワク感が一般人の活躍ストーリーにはあるのだろう。

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