『ゼイチョー』が挑んでいる物語的な“チャレンジ” 菊池風磨のアドリブ演技が尊いワケ

『ゼイチョー』が挑んでいる“チャレンジ”

 菊池風磨が主演を務める日本テレビ系ドラマ『ゼイチョー ~「払えない」にはワケがある~』は、徴税吏員が滞納されている税金を徴収するべく奮闘する物語。身近な納税の問題についてのドラマなだけに、毎回放送終了後には賛否両論さまざまな意見が飛び交っている。これまでに感じた作品の魅力や、率直な感想、そして今後に期待したいポイントついて触れてみたい。

 同ドラマでは、みゆきの市役所納税課徴税第三係を舞台に、滞納されている税金を納めてもらうことを仕事とする市の職員「徴税吏員」、つまり「税金の取り立て屋」と呼ばれる彼らの奮闘が描かれる。ノリは軽いが優れたスキルを持った饗庭蒼一郎(菊池風磨)と、真面目に滞納者と向き合う猪突猛進タイプの新人徴税吏員・百目鬼華子(山田杏奈)のコンビを中心に、滞納者のお金と心に寄り添い、解決方法を見出していく。原作の『ゼイチョー!~納税課第三収納係~』は、著者である慎結が市役所で非正規職員として働いていた経験を基に描かれている。

 この物語の難しいところは、市役所納税課という、国税ではなく地方税を描く点にあり、税金問題のドラマとして面白くなるような、所得税、法人税、相続税、贈与税といった事件性になるものは対象にはならないところだ。住民税や固定資産税といった払えないほど額が大きいものではなく、だいたいは役所が把握している数字の問題なので、組織犯罪のようなエンターテインメント性溢れる大きな話にはなりにくい。なので、どうやったら払ってくれるのかという、意固地な相手の心にどう入り込むのかというミニマムな話をどう面白くするのか、ここが今作の肝だと考える。

 今作には二つの軸があり、一つは徴税吏員が滞納者が抱える背景に寄り添い解決の道を見出す1話完結の人情物語。新人の百目鬼華子は幼いころ母子家庭で育ち、自宅が税金を滞納して差し押さえられ、そこで助けてくれた徴税吏員に出会った経験から「とにかく困っている人を助けたい」と様々な滞納者たちに向き合い、饗庭の指導を受け成長していく。

 華子は成績優秀で堅物のように見えて熱意とやる気に溢れており、相手を思いやる人情もある。第2話まで観た限りでは、いわゆる他の職業ドラマで見るような新人ゆえの無鉄砲に行動するタイプではない。ただ経験不足なだけで、『これは経費で落ちません!』(NHK総合)で多部未華子が演じた堅物経理役のように、感情を抑えた完璧人間のように、粛々と仕事を全うしていくタイプのように見える。その堅さを、饗庭やチームがアドバイスし、こんな解決方法もあるのだとサポートしていく。つまり、ハラハラドキドキする危なっかしい新人ではないので、彼女が見せる細やかな気づきや、そこから見せる笑顔が、物語を魅力的なものにしている一つの要素になっている。山田は映画『ミスミソウ』や『樹海村』など、重い設定の役を静かに熱演できるタイプの俳優なので、これから饗庭がシリアスモードに変わった時にコンビとしてガッチリハマっていくと予想する。

 もう一つ、ドラマの縦軸となるのが、饗庭の背景と副市長・相楽義実(本郷奏多)との対立。饗庭は元財務省の官僚で相楽と同期であり華麗な経歴を持つが、財務省を辞めて徴税吏員になっている。それは同僚の奥林礼二(結木滉星)が自殺をしようとしたのが大きな理由なのは明白だ。その理由はまだ分からないが、もし財務省の出世争いで精神的に追い込まれたのが理由だとしたら、饗庭もそうした争いに嫌気がさして今の仕事に就いたと考えられる。お調子者としてふるまっているのも、そうした経験からの裏返しで、真面目な華子が奥林のようにならぬよう、あえてピエロのように振る舞っているのだとしたら、菊池のアドリブ演技も尊いものに感じてくる。

 相楽は財務省から出向した新副市長で、みゆきの市の税金徴収率をあげるべく、「徴税強化体制」を打ち出し、強権的に市民への徴収を行うよう指示をした。いわば、饗庭や華子のような心に寄り添うやり方とは真逆の方針で、いずれ大きく対立するはず。饗庭とは出世レースで残った者と脱落した者という関係で、しばらくは敵役として邪魔をする立場だろう。だが奥林が自殺しようとした理由が、税金滞納の問題で滞納者や上司たちに迫られていたことだとしたら、そうした世の中を変えたい彼なりの正義という考えもできる。

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